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【第201回】知識も常識もない(2009年12月19日)

ヘルパー養成講座の講義での出来事。受講生の中に気になる人がいました。若い女性で、机に寝そべったような姿勢だし、爪をしきりにさわって、集中して聞いていない様子。“ヘルパーになる気あるのかなぁ”と感じていました。

講義終了後、その彼女が私に話しかけてきました。ちょっと意外な感じがして「どうされました?」と訊くと、「センセイ、私、知識も常識もないんですけど、私でもヘルパーになれますか?」と質問するのです。“あ、自分で、常識がないって思ってるんだ”と内心思いながら「あなただったら、どうですか?」と逆質問。

「あなただったら、自分のおとうさんとかおかあさんとか、おじいさんとかおばあさんの介護に、知識も常識もないヘルパーさんが来たらどうですか?」との私の問いに彼女は「いやですね」と素直に答えました。「でしょ?そういうことです」と言うと「わかりました」と教室を後にしました。

その後姿を見て、私は少し胸が痛みました。確かに講義中の態度は“常識に欠ける”ところがありました。だけど、今の言葉遣いは丁寧でしたし、そのように自分を見つめていて彼女なりに自分のこれからを模索していることがわかります。よく考えれば“常識がない”としても、それは彼女の責任ではなく、それを教えてもらう機会がなかったという点では、社会の被害者とも言えます。

エレベーターのタイミングを見計らって、彼女に追いつき、声をかけました。「さっきの質問のことだけど、"知識も常識もない私だけど”って言ってたでしょ?それって、ヘルパーだけじゃなくて、どんな仕事だって、知識とか常識って必要だと思うの。」「"知識や常識がない私でも出来る仕事”を見つけようとするんじゃなくて、"知識や常識がある私”になるにはどうしたら良いかを考えたほうが、人生拓けると思う」とややおせっかいな言葉をかけました。彼女は素直に「そうですね」と言ってくれました。

どうぞ、これからの彼女の人生が、"常識のない私”と自己評価の低いポジションからスタートするものではなく、自信をもって切り開いていくことができますように!来週、もう一度、彼女は私の講義を受講します。受講中に失礼な態度があれば、しっかり指摘しようと思っています。

それにしても、なんだかとっても「人生の先輩」の気分。私もついこの間まで、あんな感じで、自分の立ち位置が定まらなくて、どちらを向いても「人生の先輩」がいっぱいいたんだけどなぁ…。

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