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親ケア奮闘記Part2【闘病編】

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【闘病編・第23回】独りになった父。 その10

お金の話。

頻繁に帰省して、母の面会や父の食事や身のまわりの世話をするには、いろいろな出費が必要です。交通費はもとより、食事代、その他の買い物代、私が帰省時に使う仕事用のパソコンなど、バカにならない金額がかかってしまいます。もちろん、母の入院代だって忘れるわけにはいきません。

これまでは私のポケットマネーから出していましたが、短くても3カ月はかかる母の入院期間中、ずっと私一人で支え続けるのは厳しいものがあります。

「やったー、勝ったがね!」
私の考え事を邪魔するかのように、父が呑気な声を上げました。
「……父さん」

さすがに文句を言おうと口を開いたとき、私の頭にある考えが浮かびました。
「父さん?」
「ん~、何? そろそろご飯?」
「ご飯には少し早いだろ。ちょっと相談があるんだけど」
「なんでも言ってちょー」

父に向かい合うように座った私は、話を続けました。
「母さんの入院代とか、父さんの食費とか、結構金がかかるんだけど」
「うん、大変だなぁ」
「これまで、俺が出してたんだけど」
「助かるなぁ」
「いや、『助かる』じゃなくて、このままだと俺が困る」
「じゃあ、どうするの?」
「父さんや母さんのお金から、いろいろと支払えるようにしたい」
「……と言うと?」
「一緒にお金を下ろしに行って、それを俺が預かりたいんだけど」
「あぁ、いいよ」。

50万円。

拍子抜けするほど、あっさりとOKした父を連れて、貯金している農協に向かう途中、私は父に念押しの質問をしました。
「本当に、父さんや母さんのお金を使っていいんだね?」

「当然だがや。母さんの口座じゃなく、ワシの口座から下ろして渡すがね」
「……ありがとう」
これで、当面の金銭的なピンチは免れることができたわけです。ただ、両親の預貯金を無闇に使い切ってしまうわけにもいきません。また機会を見つけて、いくらぐらいの蓄えがあるかも確認しておかないといけないなぁ、などと考えながら、農協の駐車場に車を停め、父をATMへと送り出しました。

数分後、車に父が戻ってきた父が手渡した現金入りの封筒は、妙に分厚いものでした。
「50万円あるがね」
「いや、すぐ、そんなには要らないから」
「孝ちゃんがいろいろ頑張ってくれている、お礼だから」
「そんなに気前よく使っちゃうと、あとで困るだろ」
「大丈夫、どうにかなるがね」
「……ありがとう」

とりあえず、その50万円は私が預かっておき、必要に応じて少しずつ使わせてもらうことにしました。財布も普段自分が使うものとは分けておき、明細書も残すことに。これで母が退院後、貯金の残高が減っていることに気づいても、納得してくれるはずです。

自宅に帰ったあと、先ほどリスト化した家事分担と、Faxの使い方などを説明しました。特によく使うボタンについては、何のボタンか大きく書いたメモを貼り、これならまず間違いないだろうという状態です。

番号登録したボタンを教えて、母の病院に電話をかけさせると、父は「これは簡単。ワシでも使えるがね」と上機嫌。母に電話で、Faxを購入したこと、私が家事をやることになったこと、自分も少し手伝うことになったことなどを報告しています。

ひとしきり父が話したら、今度は私の番。電話を替わってもらい、1日の様子を母に尋ねると、昨日よりは病院の雰囲気に馴染みつつある感じです。

なんとか、このまますべて良い方向に進んでほしい。そう思った矢先、私の心を一気に萎えさせたのは、母の言葉でした。

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