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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第20回】サービスを利用したいけど。 その2

貸与はできませんね。

「申しわけありませんが、どなたか連絡先になっていただける町民の方がいなければ、緊急警報装置の貸与はできませんね」
「そうですか……」

実家の隣人に頼んでみようかとも思ったのですが、必要以上に見栄っ張りの父のことです。
母が精神の病気で入院していること、自分自身が誰かの世話にならなければいけないことを、素直に近所の人に伝えられるはずがありません。

また母が入院する前に、病気による妄想から、「隣の家の人が勝手に庭に忍び込んでくる」
「裏の家の人が、午前3時頃にバーベキューをやって大騒ぎする」
「向かいの家の子どもが、親の命令でうちの庭の砂利を盗みに来る」
などと、ひどいことを言っていたのも私を躊躇させました。

そのときは「勘違いしているだけだろ。なぁ、父さん」と、父に助け船を出してもらおうとしたら、「ワシも見た」などと母の妄想を肯定したような嘘をつくので、余計に話がややこしくなったりしたものです。「なんで、そんなこと言うんだ」と私が怒ったら、「何回も母さんが同じことを言うから、そんな気がしてきたがね」と言い訳。さらに不思議なことに、それから両親二人とも近所の人を妙に敵視したり、怯えたりするようになり、昼間でも雨戸やカーテンを閉め切っていました。

そんな状態で、近所の人との関係が良好なはずはありません。帰省した際、回覧板などの受け渡しで隣人と顔を合わせてたとき、私が「いつも両親がお世話になっています」とあいさつしても、妙によそよそしくされていました。

結局、私は緊急警報装置を諦めることにして、役場の本庁に戻ることにしました。

○○在宅介護支援センター。

本庁に戻ると、先ほど私にパンフレットをくれた、高齢福祉課の職員がいました。配食サービスと生きがいデイサービスを利用したい旨を伝えると、申込書を手渡してくれながら、「介護保険の手続きについても聞いていただけましたか?」と質問を受けました。

「いえ、一つひとつのサービスについては教えていただいたんですが、介護保険のことについては特に……」
「おかしいですね。生きがいデイサービスよりは、介護保険のデイサービスのほうが自己負担額が安いですし、そちらが使えるようなら、そちらを利用したほうが良いはずですが」
「それぞれのサービス内容は違うんですか?」
「いえ、まったく同じです」

その職員としばらく話をしたところ、どうやら専門部署の職員は、個別の情報については丁寧に説明してくれたものの、「どうすれば相談者の悩みを減らせるか?」「どうすれば相談者のムダを減らせるか?」といった視点は持ち合わせていなかった模様。当時は介護保険のサービスが始まったばかりで、それまでの老人福祉サービスとの棲み分けや、役場のなかでの役割分担など、さまざまな部分が整備されていなかったようです。

「とりあえず、今日のところは配食サービスの申し込みだけをしておかれてはどうですか?」
「はい。あと、介護保険の手続きは、ここでできるのでしょうか?」
「えぇ、ここでもできるのですが……」
「……?」
「横井さんの場合、○○在宅介護支援センターに一度行かれたほうが良いかもしれません」

耳慣れない言葉に、私は質問を返しました。
「そこは、どういうところなんですか?」
「簡単に言えば、介護についての困りごとの相談に乗ってくれるところです。町からの委託で、○○法人さんが運営しています」
「もしかして……」
「えぇ、横井さんのご自宅がある住宅団地の入り口にある、○○クリニックや、○○特別養護老人ホームと同じ敷地でやっているんです」
「へぇ」
○○クリニックとは、脱水症状で倒れた父を最初に診察して、○○病院を紹介してくれたところです。

「介護保険の申請をされると、専門の人が認定調査というものに訪問するんですが、それも○○法人さんの方が行かれる場合が多いですし、配食サービスも同じところがやっているんですよ」
「確かに、一度お伺いしたほうが良いかもしれませんね」
「今から行かれるようなら、私のほうから先方に電話を入れておきます」

私は職員に感謝の言葉を告げると、○○在宅介護支援センターに向かいました。

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