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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第14回】暗転。 その1

もういい!

なんとか外泊を終えた母に変化が起きたのは、病院に戻った翌日のことでした。看護師に「今日から外泊したい」と言い張って、なかなか言うことを聞かないと病院から私の携帯に電話があったのです。詰め所で「息子に電話をかけてくれ」と言って居座っているそうで、早速電話を替わってもらいました。

「母さん、次の外泊は2週間後の予定だって○○先生も言ってただろ?」
「そんなに待てるもんか」
「昨日、病院に戻ったばっかりじゃないか」
「家にいるほうが、早く良くなるってもんだ」
「そんなことはないって。せっかくここまで良くなったんだから、しっかり治してから退院しないと」
「孝治、お前は誰の味方なんだ?」
「……少なくとも、今のわがままを言っている母さんの肩は持てない」
「もういい!」

母は大声で怒鳴ると、電話を切ってしまいました。再び病院に電話をかけ、詰め所に繋いでもらったところ、プリプリ怒りながら病室に戻っていったとのこと。

本来、母は感情を露わにすることが少ない性格というか、他人の目を気にして言いたいことも満足に言えないので、このときは本当に驚いたものです。

家に戻って過ごした時間が、それだけ楽しかったのかなぁなどと考え、その日は終わりました。

トラブルメーカー。

主治医から「お母さんがトラブルメーカーになっている」と連絡が入ったのは、それから数日が過ぎた頃でした。病院のスタッフだけでなく、他の患者たちにも必要以上に話しかけ、大声で笑ったり、急に泣き出したり、些細なことで怒り出したりするというのです。

私は耳を疑いました。
繰り返しますが、母は自分の感情をうまく出すのが苦手です。しかも精神の病気を患ってからは、感情を表現するどころか、いつも強張った顔で、本人以外にはワケのわからないことをブツブツ言うのが主でした。ここ最近は病状も回復してきて、少しずつ表情が豊かになってきたと思っていたところなのに……。

「母は、どんなことを話しているんですか?」と尋ねると、主治医は「話すこと自体は普通のことなんです。ただ、過剰すぎるというか」と答えました。

「……どういうことですか?」
「例えば、食堂で朝ご飯を食べますよね。そのとき、食堂みんなに聞こえるような大声で『このみそ汁はおいしいです!』と叫んでみたり、シーツを取り替えに病室に行ったスタッフに何十回も 『ありがとう! 私が生きているのもあなたのおかげだ』と感謝の言葉をかけて、別の病室に行くのを邪魔したり……」
「確かにそれは迷惑ですね」
「で、それを見かねたスタッフや、別の患者さんから注意されると、激しく怒り始めたり、『どうせ私なんか死んだ方がマシだ』といって泣き出したりと、 感情の起伏が激しいんです」
「外泊や退院をしたがったりは?」
「いえ、外泊から戻った次の日以降、外泊などを求めてこられたりはしていません。内心はいろいろと考えておられるのかもしれませんが」

私は心のなかで溜め息をつきました。
「今の状況では次回の外泊は……」
「当分、無理をしないほうが良いでしょうね。もし可能なら、今度の週末にでも面会に来て、ご本人の様子を見てください」
「わかりました」

退院まで、あと1〜2カ月ぐらい余分にかかるようになっちゃったかなぁ……。
このときの私は、まだそんな甘いことを考えていました。

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