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介護の本書評「review-kaigo」

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第88回 こまってしもうた 忘れてしもうた

高齢者介護施設の理想と現実がここにある。

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こまってしもうた 忘れてしもうた
安藤 りつ

内容

家族も季節も自分自身の記憶も忘れ、断片的な思い出話しか語ることがないアルツハイマー型認知症や認知症の高齢者たち。それでも彼らにとっては真摯に生を貫く日常。ヘルパーの役目はその虚像の世界に徹底して寄り添うことのみ。しかし、ヘルパーとして活動してきた筆者は、彼らの日常だからこそ見える、私たちの生き方、死に方があると語る。

書評

離婚を機にそれまで取得しただけで、使うことなど思いもしなかった介護ヘルパーの資格で仕事を得た筆者。最初は瞬間的に恐怖を覚えることも少なくなかったそうだ。その恐怖が無くなったのは認知症の人々の真剣な表情だったという。

記憶を手放して認知症となった人々の中には、自分が壊れていくことを自覚している人もいれば、空想の中だけが現実と化している人もいる。そんな人々も数十年前の記憶は鮮明に残っていて、健常者である我々と同じようにその世界を当たり前に生きている。

筆者が勤務した施設ではいじめに似たことも起こるし中傷もある。その反面、人としてあるべき礼儀や人を守ろうとする優しさを見ることもあったという。老いた身体に付いた肉のように、記憶も言葉の数も痩せ細っていくが、人は人と会話することで救われるというシーンをたくさん目撃したという。

死を現実として向き合う人たちを接するためには、その人たちと同じ数のマニュアルが必要だという。研修や学校で学んだマニュアルの通り行動することがすべてではない。施設でクラス90歳の老人に自立の訓練をして、果たして幸せになる人がいるのか……とも筆者は語っている。この中に書かれている現実は、明日のあなたかもしれないと思いながら読むことをオススメする。

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