介護のコラムを読む

社会福祉士たにこが行く

戻る

【第1回】ケアマネも自分のことになると混乱するのです (2008年4月26日)

私がケアプランを担当している方に要介護4の女性がおられます。介護保険サービスを利用しながらの、要支援1のご主人との二人暮らしなのですが、なんとそのご主人が転倒して入院!という事態が発生しました。

その女性ひとりでは、とてもじゃないけど、いくらサービスを使っても自宅で生活を続けることは難しい。さあ、どうしよう!?と、朝から、ヘルパー、ショートステイ、介護タクシー、主治医、そしてもちろんご本人、そして離れて住む娘さん……と連絡をとりながら調整して、なんとか落ち着けそうな目途が立ったのはお昼をまわった頃です。

さて仕事をキャンセルして駆けつけて来られた娘さんのその職業とは「ケアマネさん」。だったら、さぞかし落ち着いて冷静に状況を把握しておられるかというとさにあらず、「車で実家に向かう間、運転しながら頭の中がグルグルまわって、何から考えていいのかさえわからなかった」とおっしゃいました。そして「自分のこととなるとわからないもんですね」とも言われました。

私もそうでした。数年前、私の夫の父が要介護5、サービスを利用しながら、当時要支援だった義母との二人暮らしでした。
ところがある日、その頼みの綱の義母が倒れたのです。
慌てて駆けつけた私のすぐ後に往診に来てくださった医師との問診のやりとりから、脳梗塞の疑いがあるらしいことは推測できました。医師が帰られるとき、玄関で「まずいなぁ……」とつぶやいた独り言が聞こえてしまいました。義母の容態が「まずい」のではなく、義母が元気で介護できているからこそ成り立っていた生活が根本から崩れることが「まずい」のです。
ドアが閉まった後、私は涙がポロポロ出てきました。寝たきり状態が2人? 子どもはまだ手のかかる3歳なのに? 私は一体どうなるの? 私の人生はどうなるの? と何も考えることができず、ただただ涙がこぼれるのです。
私はケアマネだからこういった状況には慣れているし、制度も知っているし、どんなサービスがあるかも知っているし、仕組みも知っている。でもこのときは、先ほどの娘さんと同じく「何から考えていいのかさえわからなかった」のです。

私は、もしこの体験がなければ、混乱している娘さんを見て「ケアマネさんなのになぜそんなに慌てているの? 慣れてるでしょ?」なんて思ってしまっていたかもしれません。

「介護」を「海」に例えて考えてみました。娘さんも私も「海」がどんなものか知っているし、いつもの服を着たまま飛び込んだら溺れることも知っている。泳ぎやすい水着があることも、さまざまな浮き輪があることも知っている。そしてそのことを「海」を知らない人に伝えたりもしている。そんな私たちが、いざ自分が「海」に放り込まれたら、なんのことはない、泳ぎ方がわからなくて溺れそうだった……そんな感じでしょうか。

「海」を知っている私たちでさえ、いざ「海」に放り込まれたら泳ぎ方がわからなかったのですから、「海」という言葉を聞いたことはあっても実際に見たこともさわったこともない方であればその混乱や不安はなおさらでしょう。

娘さんと「そうそう、自分のこととなると何もわからなくなるんですよねー」とお話ししながら、私たちの役割は、初めての海で溺れそうになっている人たちに、灯台のように海を照らし、ライフセーバーのように駆けつけ、救助船のように手を差し伸べ、巡視船のように気を配る……そんな役割なのかなと思ったのでした。

親ケア.comオンラインサービス「繋がる」
おやろぐ