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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第34回】再び、退院に向けて。 その1

安全に暮らせる環境づくり。

外泊を行っても母の状態が良いままなのを受けて、私と主治医は退院に向けた準備を進めることにしました。

最大のポイントは、安全に暮らせる環境づくりです。 24時間365日、私が同居できるわけではないので、できる限り事故の危険性を減らす必要があります。 なかでも、薬の副作用からほんの少し前まで車いすが手放せなかったことを思えば、転倒防止には細心の注意を払う必要があると考えました。

3回目か4回目の外泊の際、両親を自宅に残して私はケアマネジャーのKさんに会いに行きました。一通り事情を説明すると、「バリアフリーリフォームと介護用品の購入が良いでしょうね。 お父さんと一緒にデイサービスに来てもらえるように、要介護認定もとっておきましょう。 あと、調理も最低限に留めてもらうようにして、普段の食事は配食サービスを利用してもらったほうが安全でしょうね」とのこと。
私も、この意見には異存がありません。

地元の介護用品ショップなどを簡潔に教えてもらい、「領収書を持ってきてもらったら、私のほうで手続きとかはやっておきますよ」、 「それでは、お言葉に甘えてお願いします」などとやりとりをしていると、Kさんが「今、お母さんがご自宅におられるのなら、あいさつに伺いましょう」と言い出しました。

「え、今からですか?」
「はい、何か問題があれば、ご遠慮しますが」
「問題というか、母は人見知りが激しいので……」
「えぇ、だからこそです。いきなり要介護認定の訪問調査で顔を合わせるのではなく、先にお会いしておいたほうがリラックスしてもらえるでしょうし。 一度、私に任せてもらえませんか?」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「あと、横井さんのほうでは、リフォーム会社のほうに見積の依頼の連絡をしてみてください。 うまくいけば、今日か明日には来てもらえるはずですよ」
「はい」

大丈夫、私に任せて。

手早く外出の準備を済ませたKさんを連れて実家に帰ると、父がゲームを、母が洗濯をしているところでした。

「母さん、家にはのんびりするために帰ってきてるんだから、洗濯なんかしちゃダメだって」と私がとがめると、「これぐらい平気。少しは身体を動かしたほうがラクだから」と反論する母。
「父さんもなんで止めかったの?」と父に聞くと、「もうちょっとで勝てそうだがや」とゲームに夢中。埒があきません。

「さっき家を出るときに『2人で大人しくテレビでも見といて』って言っただろ?」と、つい声のボリュームが上がる私の後ろから、「……まぁ、まぁ、横井さん」とKさんが声をかけました。

そして両親に対して、少し大きな声で「陸夫さん、こんにちは。そしてかつ子さん、はじめまして。○○○○のケアマネージャー、Kと申します」とあいさつしました。

父は一瞬、驚いた顔をしたあと、「Kさん、いらっしゃい」と笑顔に。
「すいません、息子さんと一緒にお家に上がっちゃいました」というKさんに、「いつ来てくれても、大歓迎です」と調子の良い父。

その様子を無表情で見つめる母に向かって、Kさんは改めて話しかけました。
「突然お伺いしてすいません。息子さんとお話ししていたら、かつ子さんがご自宅に戻ってきているとのことだったので、どうしてもごあいさつさせてほしいとお願いして連れてきてもらったんです」

母の表情にはこれといった変化はなく、「はぁ……」と曖昧な返事をするだけ。
「陸夫さんには、配食サービスやデイサービスなどで、いつもお世話になっているんです」
「はぁ……」
細かな感情までは読み取りにくいものの、母が警戒していることは間違いなさそうです。

そんななか、「やったぁ。Kさん、Kさん、ワシ勝ったがね!」と、父の突拍子もない声が。
いつの間にかゲームの続きに戻り、無事に勝ったようです。当時の父は、かなり昔に買い与えた囲碁や将棋のゲームにハマリ続けており、コンピュータ側のレベルを最弱にして、コテンパンにやっつけるのが大好きでした。うっかり負けそうになると、リセットするのもお約束です。

「父さん、そんなことをやってる場合じゃないだろ!」
私が声を荒げると、Kさんは私にだけ聞こえる声で「大丈夫、私に任せて」と言い、両親に向かって「息子さんは、少し電話をかける用事があるようなので、席を外されるそうです。私たち3人でお話ししましょうね」と声をかけました。

こうなると私に選択肢はありません。
ケータイを手に家の外に出て、リフォーム業者に電話をかけることにしました。

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