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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第21回】サービスを利用したいけど。 その3

Kさんとの出会い。

○○在宅介護支援センターは、自宅から歩いて10分もかからないところにありました。 外から見た印象よりはるかに奥行きがあり、敷地・建物ともに広々としています。 外観・内観ともにまだ新しい感じで、母の入院している古めかしい病院とはかなりの違いです。

事務室で自分の名前を伝えて用件を話そうとすると、「横井さんですね、お待ちしておりました」とジャージ姿の女性が現れました。 私より5〜6歳ほど年上に見えるその女性は、親しげな笑みを浮かべています。

Kさんと名乗ったその女性は、私を応接室へ案内しながら「私はこちらの相談員と、介護保険の調査員と、ケアマネジャーをやっています。まぁ、なんでも屋みたいなもんです」と自己紹介をしてくれました。

応接室で二人きりになると、Kさんは「役場などでお話しいただいたことの繰り返しで申しわけありませんが、まず、これまでの経緯を教えていただけますか?」と言いました。 「○○というサービスが使いたい」といった直接的な依頼を聞くこともできるものの、可能な限り相談者の抱えている悩みを聞いたうえで、それを解決する方法を一緒に考えたいというのがその理由でした。

もちろん私に異論はありません。 母の心が壊れて入院に至った過程や、身のまわりのことが何ひとつ満足にできない父に手を焼いていることなどを、具体的なエピソードや、ときには愚痴を交えながら伝えました。

Kさんは、時折質問を挟みながら根気よく私の話を聞き、ポイントとなりそうなところをメモしています。 ひと通り話し終わった頃には、1時間以上が経過していました。

横井さんご自身は、どうしたいとお考えですか?

Kさんと話をするうちに、私自身のなかでモヤモヤとしていた悩みやいらだちも薄れ、現状の問題に対し、どうすれば前向きに対処できるかを考えられるようになってきました。「それで横井さんご自身は、どうしたいとお考えですか?」という質問に対し、私が答えたのは、次のような内容です。

・母が入院している間、実家が荒れ果てたり、火事などを出さないようにしたい。
・父が脱水症状や栄養の偏りなどで、体調を崩さないようにしたい。
・母が退院した後も、父の世話などでストレスを溜めすぎないようにしたい。
・仕事や家族のことを考えると、同居は無理。
 大阪から月に数回通ってできる範囲で、親の暮らしを支えたい。

これに対し、Kさんからのアドバイスは次のようなものでした。

・入院しているお母さんについては、病院側がしっかりケアしてくれているはずなので、まずはお父さんが優先だと思う。
・なるべく早く介護保険の申請をしてほしい。
 利用可能となるサービスの幅が、ぐっと広がる。
・横井さんの考え通り、配食や見守りについてのサービスは利用したほうが良い。
・お母さんの退院後のことについては、 まだ時間の猶予がありそうなので、緊急の問題に対処してからにしてはどうか。
・現時点で、横井さんが同居することは考えないほうが良い。生活そのものができなくなってしまっては、元も子もない。社会資源をうまく生かす方法を、一緒に考えていきたい。


こうして書き出してみると、当然のことばかりにも感じられますが、混乱と悩みのなかにいた当時の私にとっては、いちいち納得できることばかり。Kさんへの信頼感は、一気に高まりました。

「最優先するのは、何にすれば良いでしょうか?」と尋ねる私に、「介護保険と、配食サービスの申請ですね」と答えるKさん。どちらも○○在宅介護支援センターで手続きすることができるそうなので、すぐにもお願いすることにしました。

「それでは、現状の介護保険証と印鑑を持ってきてください。あと、できれば一度お父さんを連れてきてもらえませんか?」
「えぇ、でも父を連れてきたら、『介護なんて、とんでもない』とか 怒り出しそうな気がするんですが」
「確かにそう言う方もおられますが、まぁ、おまかせください」

自信ありげに微笑むKさんを見て、私は素直に頷いていました。このKさんとの出会いは、その後の介護生活に大きな影響を与えるものとなりました。

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