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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第12回】父の入院。 その5

なんで、俺ばっかり……。

病院から徒歩15分ほどのところにある警察署へと歩きながら、私は自分のついてなさ加減にうんざりしていました。

母の調子がおかしくなり、やっと入院したかと思ったら、今度は父。その父をどうにかサポートしようとしているうちに、駐禁で罰金を払う羽目に。

「なんで、俺ばっかり……」
気がついたときには、どうにもならないような愚痴を一人つぶやいていました。

警察署に着き、受付で事情を説明すると、交通課に行くように言われました。室内に入ると、先客が窓口担当の警官と何やらもめているようです。どうやら悪質な違反を繰り返していたようで、免許を取り消すのどうのといった声が聞こえてきます。

ほかにも何人かの警官がいたものの、何やら業務に忙しいようで、私のほうには目を向けようともしませんでした。

私は仕方なく、順番待ち用のベンチに腰掛け、窓口が空くのを待つことにしました。あまりにせわしなかった1日を思い返しているうちに、再び、「なんで、俺ばっかり……」との思いが胸に。少し感情が高ぶってしまったせいか、私の隣に警官が立ち、声をかけてくるまで気がつきませんでした。

「横井さん。どうしましたか?」

交通課ではまだ誰とも話しておらず、もちろん名乗ってもいません。私はいぶかしく思いながら、声をかけてきた警官を見つめました。

「えっと……」
「その後、お母様の様子はどうですか?」
「あぁ、もしかして」
「春先、お母様を○○病院までお連れさせてもらった、○○です」。

ここで少し待っていてください。

母が入院を拒否し、包丁を構えて父を脅かした際、私に代わって母を実家に迎えに行き、○○病院に運んでくれた恩人だと気づいた私は、深々と頭を下げました。

「あのときは本当にお世話になりました。母はその後も入院を続け、治療に専念しています」
「そうですか、それは良かった。で、今日はなんで警察に?」
「実は……」

私は警官に父が倒れたこと、駐禁の取り締まりを受けたことなど、これまでの事情を説明しました。

一通り話を聞いた警官は、「なるほど、ここで少し待っていてください」と言うと、交通課の奥のほうに行き、誰かとしばらく話をしていました。その後、近くにいた若い警官を伴って、私のほうに。

「今回の件は、違反として取り締まる必要がないと言うことになりました」
「え?」
「パーキングメーターを利用されていたわけですし、最初から違反をするつもりが無かったわけですから……」
「え、でも……」
「○○病院に行った際、横井さんが親御さんのことを大切に思っている気持ちは十分に伝わりました。厳密に言えば違反かもしれませんが、事情や緊急性を考えれば、取り締まるほど悪質なものではないということです」
「……ありがとうございます」
「パーキングメーターから10分ほど歩きますけど、○○の駐車場はいつも空いているので、オススメですよ」
「本当に、ありがとうございます」

その後、若い警官が私と一緒に自動車のところまで来て、黄色いワッカを外してくれました。

今となっては、お世話になった警官の名前は忘れてしまいましたが、私を見る温かいまなざしは、今も心に残っています。。

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