介護のコラムを読む

介護日記・二人の父の雑記帳

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第158回 タクさんの思い出【認知症以前】(2007年1月3日)

この年末年始、夫はタクさんにお線香をあげながら、タクさんの思い出話を何度もしました。
以下、夫と私の会話です。

「タクさんはお前が言ってたほど、嫌な人じゃなかったじゃないか」
「最初は嫌な父親だと思ってたけど、そうじゃなかったのよね~」
「カメラや双眼鏡を見せてよく自慢してたよな。あのペンタックスの一眼レフのオート110(ワンテン)、これも壊しちゃったんだろ?欲しかったのにな」
「双眼鏡はコンタックだよ!とか。万年筆はモンブランだよ!とか。
死んだらこの万年筆あげるよ!なんて言ったのに、認知症になって壊しちゃって、貰えるものなくなっちゃったな。見せびらかして自慢話して、でも、面白いじじいだったよな」
「趣味があなたと合ってるじゃないの(笑)雑誌の「特選街」とか「朝日カメラ」とか「カー&ドライヴ」とか、いつも買ってた。でも、「中央公論」とか「プレジデント」とかも買ってた。
車はいい年してスカGが良いって言って、2度もスカイライン買ってた。
最後に乗った車は(70歳代)VWゴルフだった。ハンドルが重くてね」

「カレーは新宿中村屋が良い!だとか、文房具は丸善だ!とか、タクさんは見栄っ張りでブランド好きなんだよな」
「そういう所へは父一人で行って、父だけの欲しいものを買ってくる。子供の私には何にも買ってくれなかった。
いつもデパートのおもちゃ売り場でだだこねて泣き騒ぐ弟には、欲しいものを 買ってあげてた。
姉弟差別が激しすぎた」
「お前のうちはおでかけ好きだよ。日曜に毎週デパートに行く家なんてないぞ。
うちは家族揃ってデパートに行くなんてことなかったな。旅行に行ったこともない」
「なぜか毎週のように家族揃って新宿のデパートに行ってた。新宿駅に駅ビルが出来る前の昔のこと。
さあ!行くぞ!と言って、支度が遅いと機嫌悪くなってね」
「必ず大食堂で食べて。でも、「盛り蕎麦でいいんだぞ。高いものはダメだ」と(笑)
新宿の紀伊国屋書店にもいつも立ち寄ってた。まだビルになる前の紀伊国屋だった」

「旅行と言っても、たいてい田舎に帰ってたことが多かっただけ。
あの頃は2等席(今で言う自由席)取るために、何時間も駅で並んで待ち、ホームに列車が入ってきたら父が指示するように動かなきゃならなかった。
「えすえはこっちから入って席を取れ!ぐずぐずするんじゃないぞ!」弟は小さかったから、父が窓から入れ込んだっけ(笑)」
「飼い犬専用の冷蔵庫とか、ホントにあったからな~(笑)アイスクリームの店舗用冷蔵庫を中古で買って、犬のために冷凍の鶏肉をまとめて買って保存してた」
「いいじゃないの。人間が使う方の冷蔵庫には入らないんだし」
「タクさんのように初詣に毎年行くなんて、うちのに親父は全然なかったぞ。
初詣で参道が混むからって、裏道から行くなんて、お前の親父はホントにせっかちなんだから(笑)」
「せっかちなのは、あなたと同じなんじゃないの?」

「毎週日曜のNHK大河ドラマはタクさん中心で、裏番組は絶対見せて貰えなかった。
だから皆が観ていた「青春とはなんだ?!」とか観られなかった。朝はいつもNHKのニュースで、他局は見たことなかった。学校で皆がするTVの話題に乗れなかった」
「うちは何でも子供の好きな番組観られたぞ。学校行く前「ヤング720」観てから行った」

母のことは大事にしていた。年が離れていたせいか喧嘩したことはなかったみたい。
いつも母が折れていたから。母が癌に倒れ先がなくなった時、一生懸命看病していた。
私達子供も父と共に看病した。
そんな父の姿を見て、父が認知症になった時、そうしようと思った。
母の生きた姿の映像を残したいと、当時初めて出た家庭用ビデオカメラを買いたいと言った。
でも、私の反対にあって止めた。
「この写真(葬儀に使った写真)見てると、好々爺(こうこうや)みたいだな」
「何?「好々爺(こうこうや)」って??」
「人の好い親爺のことだよ。この写真は良い表情で笑ってる」
「ショートに行く前に私が撮った写真だもん。認知症になってからは、人が良くなった。
外側の殻が取れたって感じで」
「お前の親父がケチだったり、ブランド志向で自慢したがりだったり、人をすぐに信用しないのは、昔、散々苦労した経験から来ていることだと俺もよくわかったよ」
「お陰で認知症になってからも、人を信用しないから、食事介助でも素直に口を開けてくれず、かといって、放っておくと自分で上手く食べられなかったり。
人に任せるとか、人の手を借りることが元々嫌いな人だった」

父が認知症になって身近で接するようになって、やっと私も大人になり、父のことがわかるようになってきた。それなのに、もういないとは…。
「お前の親父さんが認知症にならずに生きていたら、もっと楽しかったのに…」
「認知症になってからの方が、楽しいこと多かったよ。
垂れ流しとか言って、まともに相手しようと思わなかったあなたがいけなかったんじゃない?」  

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