介護のコラムを読む

介護日記・二人の父の雑記帳

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第106回 亡くなる前日のタクさん(2006年10月31日)

亡くなる前日、10/24(火)のタクさんのこと。
私が接した元気だったタクさんの最後の日のことを、忘れないうちに書いておきます。

前日の月曜は雨で、24日(火)も雨風が強い日でした。
昼頃雨が止み、夕方から再び降り出す予報だったので、雨で仕事が休みだったこともあり、雨が止んでいるうちに父の特養へ行きました。
今、行けば昼食の介助に間に合うかな?と思いつつ。
12時40分頃父のユニットに入ると、父の昼食はすでに終わり、テーブルの上にはポカリのとろみ付きがカップにたっぷり入っているだけでした。
9月下旬の退院後、ミキサー食になってからは、食べやすいのですっかり早く食べられるようになっていました。
「この時間に、珍しいですね~」と職員さん。
そう、いつも夕食の時間なので、お昼に行くのは久し振りです。
「お父さん~♪えすえですよ~。もう食べ終わっちゃったのね。
この飲み物もさっぱりして美味しいよ~♪」
と言って、いつものようにポカリが入ったカップを父の口に運ぶと、いつものようにゴクッと飲む父。
飲みながら父は小さい声で何か色々しゃべる。
「だんだんとね…どーだ、こーだ……あーだ、こーだと言われるのはね…」
その後「……わかんない!」とも。

主語のない話、テーマの分からない話。
そして、昔から父の話によく出る「どーだこーだ」「あーだこーだ」の言葉。
多分、「人から何か言われたり批判されたりするのは嫌だ」という意味の内容なのでしょう。
食後、そんな風に会話を交わして、その後、車椅子で3階のフロア巡り。
皆さんの様子を見ながら進み、父に声をかけつつ、外が見える窓の傍に行ったり…。
この日は、3階の飼い猫に出会ったかな?どうだったかな?
いつもいるんですよ、茶色の縞柄のコータローが。
父は猫にもすっかり関心がなくなってしまっていたけれど。
若い職員のTさんは、よく父の目の前でふざけて踊って見せたりして、父を喜ばせてくれました。
この日も何か、おもしろいことをしてくださったように思います。
それから、今度は腕を持っての歩行練習。
広いスペースのある場所(トイレ前の廊下)で、職員さんに付き添ってもらって父を車椅子から立ち上がらせる。
「お父さん、立ってみようね。この腕につかまってごらん♪」
「よいしょ!!」と掛け声を掛けると、父は何とか立ち上がってくれた。
向かい合って、父が私の両腕につかまって、「イチ、ニ、イチ、ニ!!」と声を掛けながらゆっくり歩く。
父の膝はあまり曲がらず、真っ直ぐなままでおぼつかない。
父は真っ直ぐにしか進めず、ターンで向きを変えるときもゆっくり、ゆっくりと誘導する。
そのうち、父のズボンの股下が異常に短くなっているのに気がつく。
相当ズボンが下がっているみたい。
と、思っていたら職員さんが飛んできて下がったズボンを直して、ウエストの紐をキュッと結んで「これで大丈夫!!」と。
歩行練習時は、父に語りかけても父は黙ってうなずくだけ。
ちっとも言葉を発しませんでした。歩行練習で緊張していたのでしょうか?
その後、今度は手の爪切り。
「お父さん、伸びるの早いね~」と言いながら、ヤスリもかけて仕上げも綺麗に。
この頃には、再び何かしゃべり出していました。
そして、3時のおやつの時間。
グレープゼリーとコーヒー牛乳のとろみ付き。
これも口に運んであげると、あっというまに食べてしまいました。
父の部屋に入ると壁の時計が止まっていました。(父の私物)
ちょうど職員さんが来たので、「止まっちゃったけど、父は見ないし、電池入れ替えしなくてもいいかしら?」と言うと、「私達、よく時間見ますよ」とのことで、次に来る時、電池を持ってくることにしました。

今になって思うと、父の壁時計が止まったのは…父が終わる予感だったのかな??
「今日は用があるから、ちょっと出かけて来るね!お父さんはゆっくりしていてね」と、いつものように言うと黙ってうなずく父。
約2時間半父と過ごした特養をあとにしました。
外は再び雨が降り出していました。
この翌日の夕食後、様子が急転して、亡くなることになるなんて、思いもしませんでした。
いつもと違う時間に行って、色々なことをして父と過ごした充実した時間でした。
この日したことが、父との最後の出来事になってしまうなんて…。

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