介護のコラムを読む

介護日記・二人の父の雑記帳

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第89回 認知症の行き着く先(2006年10月11日)

一昨日(10/8)のタクさんは元気で、夕食前に車椅子でフロア内を散歩した時、「オッケー、オッケー、ザッツ、オッケー!!」と笑顔で言ってくれました。
父がご機嫌の良い時、以前から言っていたフレーズです。
最近は、このフレーズもほとんど言うことはなくなっていたので、とても嬉しかったです。

父が居る特養の三階フロアには猫が居ます。
犬好きの父でしたが、以前はこの猫にも興味を示して声をかけたりしていました。
一昨日、猫がゴロニャンしているそばに父を連れて行き、「猫が寝てるよ~可愛いよ~♪」と言っても、もう猫に視線が行かないし、興味も示してくれません。

そして今日(10/10)は、昨日から熱が出たそうで、夕食は私の介助で全部食べましたが、手が熱く元気がありません。
約10日ごとに、発熱を繰り返しているような日々。
食後、久しぶりに髭剃りをしてあげましたが何をされているのかわかっていない感じでした。
でも、嫌がりもせず、口の中は空っぽなのに、ずっと口をもぐもぐ動かしたまま穏やかにしていました。
今はもう、私には手が届かない「父だけの静かなる世界にいる」ようなことが増えました。

父の物忘れがひどかった頃、何かとわずらわしいことだらけでした。
この先、父はどうなって行くのだろうと思いましたが、急激な変化があるわけではなかったので、きっとずっとこんな調子かもしれない…なんて思っていたこともありました。
父と会話が成り立っていた時期だったし、父の体は元気だったし、今思えば、とても楽しい時期でした。
父の失禁が始まって、徘徊もあって、様々な認知症特有の症状に悩まされて、それらの対応に追われていた時期もあったけれど、それでも父との会話が成り立っていました。
父の物事に対する興味はどんどん薄れていったけれど、今ほどではありませんでした。
この頃ですら、今の状態の何倍も父と生活を共にできた喜びがありました。

現在、一見、無気力、無感動、何も考えていないような、ボーッとした様子。
そんな父に「目を覚ませ~!心を覚ませ~!」とばかりに、私は父に色々話しかけます。
話しかければ父も何か言うのです。元気な日には。
何か話しかけて欲しいのです、父だって。
心が冴えている日には、笑って冗談めいたことも言えるのです。
父は、自力では生活のほとんどのことができなくなってしまいました。
私も認知症特有の行動や症状に悩まされることはなくなりました。
今は生命を維持すること、医療的なことの日々になってしまいました。
どんどん痩せていって、歯も全て失って、風貌も随分変わってしまいました。
父がこんな風になるなんて、父には有り得ないことだと思っていました。
ついこの間までは…。

体も丈夫でした。
運も良かった方でした。
父はとうとう認知症の行き着く先まで来てしまったけれど、私は諦めない。
父の笑顔と、父の勝手なおしゃべりが、この先もっともっと続くように、私は父を最後まで応援していきたい。
最後まで父を応援しているこの私を「自分の娘」だと全然わかってくれなくても…。

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