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介護日記・二人の父の雑記帳

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第81回 認知症中期のタクさん その15(帰宅願望1) (2006年10月3日)

認知症中期のタクさんの「デイ・エピソード集」が続きましたが、このシリーズは一旦中断して、今回は「帰宅願望」について書きます。

父の場合、帰宅願望については、あまり困ることはありませんでした。
「帰りたい」を言う時期が長くなかったせいかと思います。
帰宅願望を訴えた時期は、前回書いた「右膝にひび」が入った時期の頃が最も多く、2002年デイに通い出した年で認知症発症9年(81歳)の頃でした。
この頃は、認知症に特徴的な出来事が次々に起きた時期でした。

◆俺の家だという証拠は?
2002年夏、「右膝にひび」の頃、デイから帰って自宅で帰宅願望を訴えていました。
デイから帰宅して、いつものように私とおやつを食べてコーヒーを飲んだりしていていると夕方になります。
すると決まって「おいくらですか?」と父。
ここは喫茶店じゃないのに、そう思っていたらしい。
「ここは、お父さんの家だから、お金払わなくていいのよ」と私。
「どこが俺の家だ?!その証拠はあるのか?!」と怪訝な父。
「ほら!ここに置いてある本はお父さんの本だし、お父さんの名前が書いてあるよ!
お父さんが自分で名前を書いたんだよ」
「そんなこと、知らん!!」と、ますますむくれる父。
「これも、あれも、お父さんがいつも使っている物なんだよ。ここはお父さんの家なんだよ!」
「そんなの知らん!!もう帰る!!」

父に事実を言えば言うほど、父は怒り出します。
飲み食いしたお金を払おうとしたことは、その時点でもう忘れているようです。
そして、本当に今いるここが、自分の家だという意識が全くなく、何もかも自分の物だという覚えがないようでした。
事故などが原因の記憶喪失で、自分の名前も過去の記憶も全くなくなった人のことがドラマなどに出てきますが、それと全く同じことでした。

「もう帰る!!」と言う父に、私はこう言いました。
「もう夕方だし、今から帰ると遅くなるから、今日はここに泊まっていいよ!」
「そうか??じゃ、電話しておかないと!」と父。誰に電話しようと思ったのでしょう??
「私が電話しておいてあげる!」と言って、別の部屋に行き電話したふりをして、「電話してきたから、大丈夫よ!」
「誰に電話したんだ?!」と父。結構突っ込む。
「う~ん?田舎のおばあちゃんに」と、ちょっとたじろぐ私。
「そうか、それならいい」と、父が何とか納得してそこで収まる日もあれば、そう上手くはいかない日もありました。
この頃は、父の気持ちを納得させるためには「嘘」で仕立て上げる毎日でした。

帰宅願望については、次の機会にまだ続きます。

[参照]
>タクさんの病歴と経過 その2

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