介護のコラムを読む

介護日記・二人の父の雑記帳

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第59回 認知症中期のタクさん その4(自宅入浴本章)(2006年9月11日)

認知症中期(2001年後半以降、認知症発症8年以降)になると、入浴は大変になりました。
主にデイに行くようになってからのタクさんの自宅での入浴を紹介します。

一日置きの入浴ですが、入浴がうまくいくと本当にホッとしました。
認知症初期の頃、初めて入浴介助をしたとき、父は、「俺だって恥ずかしいんだよ〜」と言っていました。
私も悪い気がしました。だから、いつも父の背中側で介助します。
私はもちろん薄着になって、濡れても良い服装です。

【声掛け】
デイから帰宅して、夕食前の5時台にいつも入りました。
夕食後では眠くなる可能性がありましたから。
父のその時の気分次第で、すぐ入る気持ちになるかどうかが決まります。
だから、上手にタイミングを見計らって、入浴のある日は機嫌を損ねないようにしておきます。

「そろそろお風呂に入ろうか?サッパリして気持ちいいよ〜一緒に入るから〜♪」と誘います。
「まだいい!」「今日はいい!」と言う事はザラなので、そういうときは時間を少し置いてから、再び誘ってみます。
それでも機嫌が悪くダメなときは、私もイライラしました。

その気になってくれると、まずトイレに行って、トイレが済むと「えーと、これから何するんだっけ??」なんて言うので、すかさず「お風呂がちょうど良くなってるよ〜入ろうね〜♪」と。

【入浴法】
◆風呂場を温める
服を脱ぐときは、まあまあスムーズです。
寒いと気分を損ねるので、風呂場のすぐそばのエアコンがある広い部屋で脱ぎます。
肌着だけは風呂場の隣の洗面所で脱ぎます。
脱いでお風呂のドアを開けて入るとき、寒いと「こんなんで入れるか!!」と怒るので、先に湯気で温めてお風呂が暖かくなった頃が入り時です。
父が寒いと言わないのは夏だけです。

◆シャワーと温度
まず、風呂場に入ってシャワーをかけるのですが、この温度が大変。
どう温度調整しても、いきなり胸にかけるのではなくても、最初のシャワーでは必ず「うわっ!熱い!!」と言って「こんなんじゃダメだよ!」と言わないときはありません。

シャワーは強さと温度の調整に本当に気を遣います。
ところがシャワーの温度調整機能が具合悪いので、急に熱くなったり冷たくなったり、温度が不安定で困ります。
毎回のことですが、慣れてもうまく行かないときもあります。

急にザーッと強く掛かるのも嫌がります。熱いとダメ、冷たいのもダメ。
その温度は「父のその時の体感温度」に合わせなくてはなりません。
私が感じる適温で判断してはダメなのです。
ちょっとでも温度で失敗すると怒ってその後がうまくいきません。

◆優しい口調でソフトに手早く洗う
父はまだ自分の体を洗うことはできましたが、父まかせだときちんと洗えないので、先に大急ぎで私が洗ってあげます。
そのときも、優しい声でソフトに、「綺麗になるよ〜♪気持ちいいでしょ〜♪」「肌が綺麗ね〜」などと話しながら、手早く。
きつくゴシゴシされるのを嫌うので、撫でる程度のソフトさ加減で洗います。
時間がかかるのも嫌がります。

普通の風呂椅子(やや大きめ)に座ってもらって上半身を洗い、下半身は立ってもらって背中側で洗います。
「前は自分で洗ってね〜」と、自分でやってもらいます。
そのとき、父は自分でもあちこち洗い、顔も自分でジャブジャブ洗って拭きます。

◆仰向けシャンプー
髪を洗うのも一苦労。
シャンプーしているときには、風呂椅子に座ったままなので、ほとんど問題ありませんが、時間がかかると嫌がります。
手短に優しくソフトに話しかけながらシャンプーします。
シャンプーは量を少なくしないと洗い流すときすぐ済みません。

シャワーで洗い流すとき、顔に水がかかるのをとても嫌がります。
顔を下向きにして洗う一般的なやり方だと、タオルで顔を覆ってもらってもタオルが濡れるし、耳にお湯が入るのを嫌がるし、大騒ぎします。

私のやり方は、父に座ったまま顔を仰向けに反らせてもらい、父の後ろから片手でシャワー、片手で髪を洗い流します。
反る体勢は疲れるので時間をかけられません。

そして「もうすぐ終わるよ〜もうちょっとだからね〜綺麗になるよ〜♪」と、「もうすぐ」の(もうすぐでなくても)声かけは欠かせません。
もちろん、お湯はぬるめのシャワーで、極力顔にかからないようにします。
ちょっと長引くと怒り出して「もう止めろ!!」と怒鳴り出すので頃合が難しいです。

◆浴槽の温度
浴槽に浸かるときにも微妙な温度で苦労します。
父は風呂場に入って、すぐシャワーして、すぐに浴槽に浸かりたがります。
その時はまだ体が温まっていないので、浴槽の温度がちょうど良い温度であっても、ちょっと手を入れただけで、「こんなんじゃ、熱過ぎて入れない!!」と必ず言って怒るのです。
私がお湯に肘を肩まで入れて見せて「ほら、大丈夫よ!ちょうどいいよ!」と言っても納得してくれません。

父のちょうど良い温度とは、計ってみたら「38.5度」でした。
でも、38.5度では浸かるにはぬる過ぎます。
熱がらずにお湯に浸かっても、今度はぬるくて浴槽から出られなくなってしまうことがありました。

季節にもよりますが、ややぬるめの湯加減の40度ぐらいにして、父が足から入る部分だけ水を足して、ぬるくしました。
追い炊きができないお風呂なので、父の様子次第で急いでお湯を足すか水を足すか、そのどちらかで対応しました。
お湯の温度にはほとほと苦労しました。

慣れないうちは、湯温は息子が赤ちゃんのときに使った浮かせて使う「ベビー用風呂温度計」を用意して、わざわざ温度を測りました。
何しろ、私の体感温度ではダメなのですから。

【父がご機嫌なとき】
湯加減が良く、父がご機嫌なときは、浴槽に浸かりながら「♪い〜い湯だな〜!ハ、ハハン♪い〜い湯だな!ハ、ハハン♪」と、ある時期から歌が出るようになりました。
私もそれに合わせて一緒に歌います。
こんなときは、本当に良かったな〜と思いました。
機嫌がちょっと悪いときでも、その歌を歌ってあげると機嫌が直ることもありました。

【風呂を出る時】
父は風呂場から出るとき、とても寒がります。
夏の暑いとき以外は、「こんなんじゃ、寒くて出られない」と必ず言います。
風呂場の中と出た洗面所との温度差が、我慢できないのです。
洗面所は狭いので、普通の人なら文句言う程の温度差ではないのですが…(^-^;;

出るとき寒く感じるのは、浴槽のお湯が父に合わせてぬるいせいでもあります。
いったんぬるめにすると、父の家のお風呂は沸かし直しができないシステムですから大変です。
でも、浴槽のお湯が熱いと「火傷する!」と怒るし…。

そのため、暖かい風呂場の中で体をタオルで拭き、寒くないように「バスタオルで体を包みながら」風呂場のドアを開けて出ます。
出てからもすぐ体を拭きなおします。水分が残っていると寒いですから。
タオルで拭くときもソフトにしないと怒ります。
父が自分ですると時間がかかり寒くなって、自分で文句を言って怒ることもありました。

これもまた、タイミングが悪いと、せっかく風呂場の中で体を拭いても、寒いのでまたお湯に浸かると言い出します。
タオルで拭いたのに、再びお湯に浸かり、ぬるいお湯で出られない…そんな悪循環も何度かありました。

結局、父に限らず認知症の人は「人に何かされると、どうなるか分からないから不安で拒否が出る」んだと思います。
何か自分の身に危険が及ぶかもしれない、しかも無防備な裸だし…ということだと思います。
認知症の人の介護には「安心感を持ってもらう」これに尽きると思います。

長くなりました。
次回は「自宅入浴ドタバタ編」で、ちょっとした事件を書きたいと思います。

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