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【第267回】本人の幸せとは…(2010年5月15日)

Aさん(入院中)の夫さんから電話がありました。Aさんは、主治医から、嚥下のリハビリのための転院を勧められています。夫さんは、ケアマネさんに相談することではないかもしれないけど聴いてほしくて…とおっしゃいます。その電話の内容は、転院してリハビリをすることが本当に本人の幸せなのだろうか…ということです。そもそもは骨折が原因での入院。手術は無事終了し、本来なら退院して家に帰ってくる予定でした。ところが、食事がうまくとれず、いったん転院という流れになっているAさん。夫さんは、とにかく大好きな家でAさんをのんびり過ごさせたいと思っておられます。

80代も後半になって、リハビリや検査をすることが、自然な人の道なのだろうか。食べづらくなっていくことも、人の寿命の一連の流れなのではないだろうか。だったら、それに逆らわず(つまりリハビリなどはせず)、寿命を全うするという選択肢もあるのではないか…というのが夫さんの思いであり迷いなのです。「ご主人が描かれていた道とは違うレールが、突然病院から敷かれて、列車が勝手にそっちを進んでいきそうな感じなのしょうか?」とお尋ねすると「そう。病院のペースに支配されたくない」とおっしゃいます。

これが、たとえばガンの末期で、どんなに治療を施しても回復の見込みがないとなれば、納得できる最期を迎える看取りのご相談となってきます。でもAさんの場合はそうではありません。リハビリをすることで回復の見込みがあるわけです。でもそのリハビリはAさんにとっては、決して楽しいものではないかも知れません。思ったほど効果がないかも知れません。もしかしたら、そのまま家に帰れない可能性もあります。

おうちが大好きなAさん。自室のピアノが大好きなAさん。そしてピアノを弾くAさんを愛おしく見つめておられる夫さん。Aさんがいつまでもピアノを弾ける環境を…と施設入所は選択肢に入れず、毎日ヘルパーが入ることで自宅介護を続けてきた夫さん。何が本当にAさんの幸せなのか…。人間の命とは何ぞや人生とは何ぞやという根源の問いを突きつけられたような気がしています。そして医療の役割、私の役割…大きなテーマです。(ちなみにAさんは、精神的な疾患をお持ちで、意思決定や判断は難しいかたなのです…)

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