ヘルパー養成講座の講師として教室に行った時のこと。
開始前に、男性の受講生さんから質問を受けました。「テキストのどこを見ても“しつけ”のことについて記載がないのですが、どこまで“しつけ”をしていいのか線引きがわかりません」とのこと。しつけ!?しつけ?しつけですか?もしかしたらハンディのあるお子さんのケアに携わっていらっしゃるのかな?
詳しく聞くと、どうやらそうではなく、高齢者の介護に関わっておられる方のようです。彼の質問の意味は「施設は共同生活なのに、他者に迷惑をかける行為をする利用者がいる。そのような利用者に対してどこまで“しつけ”をしたら良いのかが判らない」ということのようです。質問の主旨はともかく、そこでどうして“しつけ”という言葉がでてきます?胸が痛くなります。涙がでそうです。
介護の場面においては、それは“しつけ”という概念ではないと説明しようとしたのですが、彼は「一般的な“しつけ”とは意味が違うかもしれませんが、だったら、適切な言葉を明示してもらい、ちゃんとテキストに、どこまでがOKで、どこからが不可なのかを明記しておいてもらわないと、新人は判断に困ります」と主張されます。高齢者のことを考える時に“しつけ”という言葉を使うその神経、そして、明確な線引きを求めるマニュアル感覚に、私は、深い溝を感じたのです。
ですが、現場で働きながら資格取得を目指す受講生さんです。なんとか、溝を埋めたいと思いました。まるで禅問答のようなやりとりが続きました。開講前に私のエネルギーは彼に吸い取られた感じです。
で、今日の講義は「介護概論」。病気を治すことが目的の医療とは違う介護の価値観、基本などを伝えたつもりですが、はたして彼にどこまで届いたか…。自分の無力を感じた一日でした。