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親ケア奮闘記Part5【慟哭編】

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【慟哭編・第6回】温泉へ行こう。 その5

早く遊びに行こう!

母をTクリニックに連れて行った翌日、予定通り津駅で妻子と合流。温泉へと向かいました。

久しぶりの家族旅行。娘が生まれてから、両親とそろって旅行に行くのは初めて。そして、長く苦しめられてきた母の病気にひと区切りつき、以前に近い生活が送れるようになったお祝い。

本来なら楽しい気分でいっぱいのはずですが、私の心はザワザワとしたままでした。それはもちろん、両親の今後をどのようにしていくべきかという問題が、重くのし掛かっていたためです。

しかし私が難しい顔をしたままでは、家族が旅行を楽しむことができません。複雑な気持ちを押し殺しながら、笑顔で振る舞います。

いつもと変わらぬ様子の妻や、旅行にテンションが上がる父、見るものすべてが珍しいのかキョロキョロと落ち着かない娘、そして、昨日巻き爪の処置を終えたばかりで少し足を引きずり気味の母を連れて、近鉄電車の特急に乗車。温泉の最寄り駅は、特急に乗れば20分もかからないところなので、あっという間に到着しました。

駅までホテルのバスが迎えに来ており、それに乗って現地へ。30分ほどで到着しました。
温泉のほか、パン作りの体験工房やパターゴルフ、テニスなど、さまざまな施設が併設されており、のんびり過ごすも良し、しっかり遊ぶも良しという感じです。

とりあえず荷物を部屋に運び、お茶を飲みながらひと息ついていると、娘が「早く遊びに行こう!」と急かします。「おじいちゃん、おばあちゃんが疲れちゃうから、もう少し休もうね」と言ったところで、幼稚園児に我慢ができるわけもありません。

結局、娘と一緒に各施設を見てまわることになりました。

それ、早く言ってよ。

母に「部屋で、ひと休みしとく?」と尋ねると、「まだ足が痛いから、そうする」との答え。何かあったら携帯で連絡するように言い聞かせ、両親を部屋に残して、私と妻は娘を連れて売店やロビーなどをウロウロ。

じきに館内で見るものもなくなったので、ホテルに隣接しているパターゴルフ場で遊ぶことに。他の客などがいなかったこともあり、すぐにプレイできたのですが、娘には少し難しかったのか、30分も経たないうちに飽きてしまいました。

結局、部屋に戻ったのは、1時間ほど経ってから。部屋のドアをノックしても、返事がありません。トイレに行くにしても、両親が2人そろってというのは無いはずです。私たちを待つのに飽きて、売店にでも行ったのかな、とも思ったのですが、パターゴルフ場からホテルの玄関、売店、部屋までのルートは一つだけ。そのどこでもすれ違ったり、見かけたりしていません。

なんとなくイヤな予感がして、携帯宛てに電話をしてみたところ、部屋の中からかすかに着メロが聞こえてきます。

「母さん? 父さん?」
私は少し大きな声を出しながら、ドアを強くノックしてみましたが、やはり反応がありません。

「ちょっとフロントに行って、カギをもらってくる」と私が言うと、妻が「なんで?」と返しました。焦らない妻の様子を不思議に思いながらも、「このままじゃ部屋に入れないし、2人がどこに行ったか探さないと」と答える私。

「だって……」と言いながら、妻はドアノブに手をかけ、そのままガチャッとドアを開けました。

「……?」
「部屋を出るとき、ちゃんと見てなかったでしょ。ここ、オートロックじゃないから」
「それ、早く言ってよ」

そんなやりとりをする私たち夫婦の横を抜け、娘が部屋の中に飛び込んでいきました。
そして部屋から「あ、おじいちゃんとおばあちゃん、寝ちゃってる!」との声がしたのです。

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