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親ケア奮闘記Part5【慟哭編】

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【慟哭編・第3回】温泉へ行こう。 その2

なんで、ここまで放ったらかしにしたの?

「『温泉に行けない』ってどういうこと?」と母に尋ねる私の言葉は、少し震えていたかもしれません。頭の中には「病気の再発?」という、イヤな予感でいっぱいです。

母は、特に表情の変化も見せずに、「いや、足が痛くて」と答えました。

「足?」
「うん、足の爪が痛くて、痛くて、歩くのにも難儀しとる」
「もしかして、巻き爪?」
「うん」
母も私も巻き爪の傾向があり、ちゃんと爪の手入れをしないと、親指の爪がその周りの肉に刺さって化膿してしまうのです。

入院中は、薬の副作用などもあって満足に身体を動かしにくかったため、看護師に爪切りを依頼していました。しかし退院が近づくにつれて、母の状態も良くなってきたため、「爪切りは自分でやってくださいね」と、自分でやるように言われたのだとか。そのまま、なんとなく面倒で放置しているうちに、すっかり化膿してしまったようです。

「リビングにおいで。見てあげるから」と母を促し、靴下を脱がせようとかがみ込むと、靴下の上まで血がにじみ出しています。実際に靴下を脱がせてみると、患部は通常の1.5倍ほどに腫れ上がり、見るからに痛々しい限りです。

「なんで、ここまで放ったらかしにしたの?」
「さぁ……?」
「今まで、一度も足が痛いとか言わなかったのに」
「孝治が心配すると思って……」
「だったら、早めに処置しなきゃ」
「医者はイヤだったから……」

心の病気が再発したわけではなく、ホッとしながらも、今度は母の足を何とかする必要が出てきました。

ワシはイヤだがや!

「よし、○○クリニックに行こう」
「○○クリニック?」
「そう。デイサービスの横にあるでしょ」
「あぁ、○○先生の……」

○○クリニックは、かつて父が脱水症状になった際にお世話になったところで、同じ敷地内に特別養護老人ホームやデイサービスセンター、ホームヘルパーの派遣事務所や配食サービスセンターなど、さまざまな介護関連のサービスを併設しています。 何かとお世話になっているケアマネジャーのKさんも、ここで働いていました。

かつて父が倒れた際には、とにかく近くの医者に診てもらおうと考えていたのですが、この○○クリニックは私にとって、思わぬ「当たり」だったのです。

「そう、○○先生は知ってるでしょ?」
「知ってるも何も、デイサービスの方にもよく来て、健康診断とかもしてくれる」
「その○○先生に診てもらうんだったら、イヤじゃないよね?」
「まぁ、確かに」
「それじゃ、早速行こうか。まだ空いてるはずだから」

「ワシはイヤだがや!」
それまで黙ってゲームに没頭していた父が、急に会話に割って入りました。

「ん、なんで?」
「まだゲームが終わっとりゃせんがね」
「……あのなぁ」
「せっかく、ええところまで勝っとるがね」

父の頭を引っぱたきたいのをグッとこらえ、「父さんは来なくていいから、留守番しといてよ」と言う私。
「土産に、豆が欲しいがね」と、好物の豆菓子をねだる父。
「クッ、クッ……。子どもみたい……」と、そのやりとりを見て笑い出す母。
それにつられて笑い出す、私と父。

急速に私のイラ立ちも収まり、母と2人で○○クリニックに向かうことにしました。

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