親ケア奮闘記Part4【激動編】

【激動編・第27回】変わり果てた母。 その4

はや、く、殺し、て……。

「○○、せん、せい……」
母は私でも父でもなく、主治医に向かって話し始めました。

「私の、身体を、もと、に、戻し、て」
力なくうなだれたまま、途切れ途切れに話す母の言葉は、静まりかえった診察室に響くように感じられました。

「私、は、薬を、やめて、と言った」
「……」
「でも、○○、せん、せいは、やめ、てくれな、かった……」
「……」
「こんな……」

「横井さん!」
最初、母の言葉に耳を傾けていた主治医は、途中で母の話を遮り、少し焦ったように話し始めました。
「今の状態は、治るための途中段階です。思ったように身体が動かなくてツライでしょうが、僕も一生懸命に頑張りますから、一緒に病気を治しましょう」
「う……。もう……、イヤ……」
「この前、『息子さんに会わせてあげるから、頑張りましょうね』って言ったら、『うん』って言ってくれたじゃないですか」
「はや、く、殺し、て……」
「え? 何を言ってるんですか?」
「わた、しを、殺し、たい、なら……。はや、く……」
「殺したいと思っている人のために、治療なんてしませんよ」

端から見ている限りでは、主治医と母の間に信頼関係があるようには見えません。
ただこれは、母の病状の変化による一時的なものなのか、それとも主治医に対する本質的な不信感なのか、まだ判断ができませんでした。

調子が良いときの母は、「○○先生にはいつも感謝している」
「○○病院の人たちは、みんな優しくて神様みたいだ」などと言っていました。
これは母の特徴の一つで、自分より力のあると思う相手を褒めちぎることで、その人に攻撃されないようにするための一種の自己防衛みたいな場合がほとんどです。

でも私に対して、「この病院に入って良かった。孝治のためにもしっかり治したい」と語った言葉だけは、心から出たものだと信じたかったのです。

退院すればえぇがね!

「先生、退院させてください」
それまで黙っていた父が口を開きました。

「えっ?」
「これ以上、妻を苦しめないでください」
「いや、別に苦しめようとしているわけでは……」
「苦しんでいるじゃないですか」
「いや、これは……」

「いい加減にしろ、父さん!」と私が止めに入ると、「これで黙っておれるもんかね!」と食ってかかります。

「母さんがこんな状態で、孝ちゃんは悲しくないかね?」
「いや、そりゃあ悲しいけど……」
「なら、これから退院すればえぇがね!」
「無茶言うなって」
「こんなとこに閉じこめておいたら、母さん、もっとひどいことになるがね!」
「なんで決めつけるんだよ」

「私は、横井さんに治ってほしいと、自分なりに精一杯努力しています」
再び主治医が話し始めました。
「でも残念ながら、決定的な治療法が見つかっていないのも事実です」
「じゃあ、退院を……」と父が言いかけると、「いえ、さすがにそれは性急すぎます」と制止する主治医。

「ただ、今のままの治療を繰り返しても、大きな変化は期待できないとも思います」
「……」
「現在、通常の処方では副作用が強く出すぎるので、ごくごくわずかずつの薬を投与したり、普通なら使わない薬を使ったりしています」
「……」
「例えば、てんかんの薬を少し投与して、その副作用を病状の改善に生かす、なんていうこともやっているんです」
「そんなこと聞きたいんじゃなくて、妻を退院させたいと言っているだけだがや!」

じれた父が声を荒げると、主治医はあらかじめ予想していたかのように、落ち着いてそれに応えました。

「えぇ。だから実は今日、これからのことをご相談しようと、お越しいただいたんです」

【激動編・第28回】変わり果てた母。 その5については、こちらへ。

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