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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第26回】変わり果てた母。 その3

もっと、しっかりと支えないと。

看護師に主治医と話をしたい旨を伝えると、病棟内の診察室へ行くように案内されました。

母の車いすを押しながら向かったのですが、上体が左斜め前へと突き出したようになっているため、背もたれを使って安定した姿勢を保つことができず、気をつけていないと車いすから前に転がり落ちそうです。

「父さん、母さんが落ちないように支えて」
「わかった。まかせてちょー」
「……」
「……」
「父さん、母さんの上着を指でつまむのは、支えてるとは言わないよ」
「うん」
「もっと、しっかりと支えないと」
「でも、母さんが倒れてきたら、ワシまで倒れてしまうがね」
「だったら『まかせてちょー』とか言うな!」

母は、そんな私たちのやりとりに対しても無言のままで、生気がありません。車いすを押す私から見ると、まるで壊れたマネキンを運んでいるようです。

母を入院させたこと自体が間違っていたとは思えません。そして退院したがる母を、「しっかり治療が終わるまで」と言い聞かせて、病院に留めたのも正しい判断だと思います。

それでも、人としての覇気をすべて失ってしまったような母の姿に、車いすを押す私の手は、ハンドル部分を必要以上に強く握りしめていました。

……これは、治るんですか?

ほどなくして、診察室へ到着。しばらくぶりに会った主治医は、心なしか疲れているように感じられました。

「○○先生……」
「横井さん、ご無沙汰しています」
「母のじょ……」
「驚かれましたか?」
あいさつもそこそこに、母の状態について質問しようとした私を遮り、主治医は話し始めました。

「閉鎖病棟に移られてからしばらくの間、お母さんはかなり興奮されていました。そこで、まずは心を落ち着けてもらうために、軽めの精神安定剤を使うことにしました」
「はぁ……」
「ただ、以前、悪性症候群になられたことがあるので、投薬の量はほんのわずかずつ、様子を見ながら調整していくしかないんです」
「はぁ……」
「その後、諸悪の根源とも言える幻聴を減らすための薬を投与しはじめたのですが、以前、お話ししていた『薬が効きにくく、副作用が出やすい』という、お母さんの体質から、通常では考えられないほど微量の薬でも、ご覧のような症状が現れてしまっているんです」

「……これは、治るんですか?」
主治医は、私の問いに少し目をそらしながら「全力を尽くすとしか言えません」と答えました。

「こうした症状は、向精神薬の副作用では比較的ポピュラーなもので、パーキンソン病のようになることを『パーキンソニズム』、自分の意志と関係なく身体がピクピク動いたりするのを『ジスキネジア』と言います」
「今後の方針はどうなんでしょうか?」
「とりあえず、異常な興奮状態は脱することができたので、これから薬の量を調整していきながら、少しずつ状況を上向きにしていくしかないですね」
「はぁ……」

「孝ちゃん、孝ちゃん!」
私の横で大人しくしていたはずの父が、突然話に割り込んできました。
「何?○○先生と大事な話をしてるんだから、黙ってて」
「母さんが、何かを言いたそうだがね!」

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