親ケア奮闘記Part4【激動編】

【激動編・第25回】変わり果てた母。 その2

多分じゃ困るがや!

「こ……孝治か?」
しばらくの沈黙の後、母が最初に口にしたのは私の名前でした。
目の奥で、ほんの少しだけ感情が揺れたようにも見えます。
声はかすれ、注意しないと何を話しているのか聞き取りにくい感じです。

「母さん、やっと会えるようになったね」
「良かったなぁ、母さん」
私と父がほぼ同時に声をかけても、すぐに反応することはできません。

母の姿をよく見ると、上半身が左斜め前に大きく傾き、半端に持ち上げられた右腕の手首から先は力なくだらりと下を向いています。
持ち上げられた首は、上半身以上に左方向にねじれ、アゴが床と水平に近い状態になっています。

「母さん、母さん……!」
父が母の近くに歩み寄り、身体を揺すり始めました。

「こら、やめろって」
後ろから父の肩をつかんで止めながら、改めて母の様子を見たらまったくの無抵抗。
身体全体がぐらぐらと揺れ動いています。

父が私のほうを振り返り「孝治、母さんがおかしいがや!」と大きな声で言いました。
「うん、そうだな」
「そうだなじゃなくて、おかしいがや! しばらく会わないうちに、おかしくなったがや!」
「……多分、何かの薬の副作用なんだろうなぁ」
「多分じゃ困るがや! ○○先生に頼んで、治してもらって……」

「……そんなに、騒ぐや、ない」
興奮する父を止めたのは、途切れ途切れに話す、母の声でした。

母さん、すまん!

母は、私のほうを見ながら「孝治……、本当に、孝治か?」と続けます。

「あぁ……」と話しかけた私を制して、父が「ワシも、ワシもおるがや! 母さん、大丈夫か!」と言葉を返しました。

「おとう、さん……」
母がなんとか言い返そうとします。
「なんだ、母さん?」
「あんたは、ちょっと、黙って、いて……」

「父さん、ちょっと下がってくれ。母さん、どうした?」
私は2人の間に入り、話しかけました。

母の目の奥に、意志の火が灯されたように感じました。
「孝治、私の、身体、こんなに、なって、しまった……」
「母さん……」
「全部、全部、ここで、されてしまった……」
「いや……」
「私、びょう、いんは、イヤだと、言った……」
「だから……」
「孝治は、聞いて、くれ、なかった……」

「母さん、すまん!」
母と私の会話に、今度は父が割り込んできました。

「ワシが今から先生に話をして、退院させてもらうから!」
「……おい!」
「孝ちゃん、こんな母さんを見て、何も思わんのか?」

こんな状態で退院して、実家でまともに暮らしていけるとはとても思えません。
それでも母の姿はあまりに痛々しく、その言葉は私の胸をえぐるように感じられます。

「……とりあえず、先生の話を聞いてみよう」
私はそう言うのが精一杯でした。

【激動編・第26回】変わり果てた母。 その3については、こちらへ。

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