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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第19回】奈落。 その2

皆殺しにしてやる。

母からの電話攻撃は、日を追うごとに激しさを増していきました。

「お前はずっと息子のフリをしていただけだ!」
「お前には1円たりとも財産をやらん。すべて寄付する」
「○○(私の妻)は、病院と一緒に私を殺そうとしている」
「これから病院を抜け出して、お前たちを皆殺しにしてやる」

こうした内容の電話が、昼も夜もなく、立て続けにかかってくるのです。深夜にかかってきたと思ったら、仕事中の携帯にも。途中で強引に電話を切ったところで、すぐにまたかけ直してきます。数日も経つ頃には、家族そろって寝不足でフラフラです。

たまりかねた私は、留守番電話モードにしている間は、着信音を鳴らないように設定できる電話に買い換えました。

しかし、仕事中に携帯宛てにかかってくるのは、なかなか避けられません。病院の公衆電話からかけてくるため、他の人が公衆電話からかけてくるのと区別をつけることができないのです。当時はまだ、公衆電話を使う人も多かったので、公衆電話からの着信をすべて拒否設定してしまうわけにはいきませんでした。

そして何より、私自身が母の豹変ぶりをまだ信じたくなかったのです。病状がひどく、主治医や父の言うこともよく理解できない状態のときでも、私のことを常に案じ、私からの呼びかけにだけは応えてくれた母。そんな母が、毎日何十回も「殺してやる」と電話をしてくるようになるとは……。現実のことなのに、現実とは思いたくない私がいました。

本来なら主治医に状況を相談して、何らかの手を打ってもらうべきだったのでしょうが、私はそれについてもためらっていました。

主治医に現状を伝えたら、確実に母は退院できなくなってしまう。しかし、つい先日一緒に外出したときは、本当に嬉しそうに振る舞っていたし、今がたまたま調子を落としているだけだとしたら、また何かの弾みで回復してくれるかもしれない。

そんな根拠のない期待を捨てきれなかったのです

電話を受けなくてよい場所に行きましょう。

当然ながら、母からの攻撃は父の住む実家にも繰り返し行われました。

攻撃が始まった初日の夜中に父から電話があり、「助けてくれ! 母さんがワシのことを殺すと言っている」とのこと。
「それ、俺のところにも来た」
「母さん、どうしちまった? ワシ、怖いがや」
「病気の具合が悪いみたいだね」
「ワシのことを守ってください」
「別に、本当に殺されるわけじゃないから」
「でも怖いがや」
「ガマンしてくれ」
プチ。

携帯の通話終了ボタンを押して、私はため息をつきました。 実際のところ、私にできることはこれといってありません。 とりあえずは母の怒りが治まるまで、耐えるのみだと考えていました。

2〜3日電話攻撃が続いた後、いよいよ耐えかねた父が何回目かの相談電話を仕事中の私にしてきたとき、私はふとケアマネジャーのKさんに相談することを思いつきました。 配食サービスの導入の際などに、大きな助けとなってくれたKさんなら、何か良いアドバイスをくれそうな気がしたのです。

父のその旨を伝えて電話を切った後、Kさんに連絡を取ってみると、「すぐお父さんに会いに行ってみます」とのこと。 後で連絡をもらえるとのことだったので、お願いして仕事に戻りました。

それから2時間ぐらい経った頃、Kさんから連絡があり、「横井さん、お父さんをデイサービスに来てもらうようにしたいのですが……」との第一声。
「えぇ、それは構わないのですが、私がこれまで何回勧めても嫌がるんですよね」
「とりあえず『電話を受けなくてよい場所に行きましょう』とお話ししたら、お父さんはすぐにも行きたいということでしたよ」

今思えば、このときKさんに相談していなければ、父は精神的に破綻していたかもしれません。

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