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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第16回】暗転。 その3

ワシも欲しいものがあるがや。

ショッピングセンターへ向かう車の中でも、母のテンションは高いままでした。

「孝治も、○○ちゃんも、よう来てくれた。好き好き、大好き! 愛してる!」
「……だから何なの、それは?」
「そんなのわかるもんか、今日は嬉しいったら、嬉しい! アハハハハ!」
母の様子を見る限り、上機嫌というには明らかに常軌を逸した感じです。

「お婆ちゃん、あんまり大声を出すと疲れるよ?」
私の娘が、遠慮がちに声をかけると、「こんなお婆ちゃんを心配してくれるの? 良い子だねぇ!なんでも買っちゃるから、ドーンとまかせてチョ!」との反応。
娘も「本当?」と食いついたりしています。
「なんでもと言っても、高いのはダメだよ」と私がたしなめていると、「ワシも欲しいものがあるがや」と、なぜか父が便乗。母の様子がおかしいのをゆっくり心配することすらできません。

ショッピングセンターの駐車場に車を停めると、ドアを開けてものすごい勢いで店内に向かおうとする母。事故に遭ったり、はぐれたりしたら大変なので、慌てて制止する私。
車のドアを閉めたり、父や娘が車から降りるのをサポートしていると、「孝治、早く行こう!」と叫ぶ母。「ごめんごめん、ちょっと待って!」と叫び返す私。

発病して以来の母を思えば、信じられないような姿を次々と見せつけられ、私も付いていくだけで精一杯です。

元気になって良かったね。

店内に入ってからも、母のテンションは高いままでした。

レストランでは「一番高い料理を人数分!」と勝手にオーダーしたり、母の着替えを買いに立ち寄った衣料品コーナーでは、何十枚もの服を買い物かごに詰め込んだりと、ブレーキをかける側の私も大忙しです。

ただ、これまで見たことがないほど楽しそうな母の姿は、「今、この瞬間を楽しまないと、もう二度と楽しめない」と訴えてくるようにも感じられ、怒る気にはなりませんでした。

買い物が一段落したとき、「母さん、髪をカットしに行かない?」と尋ねると、母は嬉しそうに頷きました。病院にも髪を切る業者が出入りしており、何回か依頼したことがあるものの、あくまで「散髪」といったレベルで、もともとオシャレ好きだった母を満足させるものではありません。しばらく外出が難しくなるのなら、せめて少しでも綺麗にしてあげようと思ったのです。

母を美容室まで連れていき、髪の長さや仕上がりのイメージ、ヘアカラーの色選びをして、美容師たちに母を預けました。髪を気持ちよさそうに洗ってもらっている母に、しばらく店内を見て回ってくることを伝え、父を待合室に残して娘と2人で書店や玩具店をウロウロ。

「何でも買っていいの?」
「さっきも言った通り、高いのはダメだよ」
「……ちぇっ」
ちょっとガッカリした様子の娘。

しかし次の瞬間、私の顔を見上げると、娘はにこやかな顔でこう言いました。
「お父さん、お婆ちゃんが元気になって良かったね」

いろいろな気持ちがわき上がってきて、私は何も応えることができませんでした。

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