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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第7回】好転。 その2

母さん、よく頑張ったなぁ。

母が悪性症候群になって、2カ月半ほどが過ぎた頃。体力もかなり回復して「早く退院できるように、しっかり食事をとって元気にならないと」など、入院して以来、最も前向きなことを言うようになっていました。

この時点では、向精神薬の投与は中断したまま。出された食事は残さず食べ、病棟のレクリエーションにも積極的に参加したがるなど、日を追うごとに母の精神状態が良い方向に向かっているのが、誰の目にも明らかな状態です。

主治医によると「断薬、つまり向精神薬の服用を止めたことが、ある種のショック療法になったのかもしれない。このまま順調にいけば、外出や外泊、その先の退院も見えてきそうだ」とのこと。

死の危険を乗り越えたことで、一気に快方に向かっている……。
それまでの絶望感が大きかった分、私の喜びも格別でした。
「うまくいったら、年内には退院できるかも」主治医の言葉は、大きな希望となりました。

「母さん、よく頑張ったなぁ」
「孝治のおかげだ。入院させてくれて、ありがとう」
「……母さん」
母の何気ない、しかし入院した頃なら間違いなく言わなかったであろうひと言に、思わずホロリとしそうになります。

本当のお姉さんのように思っている。

この頃、母はナースステーションのすぐ近くの個室から、元の2人部屋に戻されていました。
本来なら私が閉鎖病棟内をウロウロするのもおかしいのですが、「患者さんたちも横井さんが出入りすることに慣れたみたいだし、お母さんが落ち着くまで出入りしていただいて良いですよ。どうせ近いうちに閉鎖病棟から開放病棟に移ってもらうことになりますから」という主治医の言葉に甘えて、面会に行った際には、母の病室まで入らせてもらっていました。

母と同室だったIさんは、70代半ばのお婆さん。しっかりと会話をすることはできないものの、穏やかで面倒見の良い人でした。私や父が病室に出入りすることにもすぐに慣れ、笑顔で頭を下げてくれるようになりました。

人見知りの激しい母も、Iさんにはよく懐いているようで、私が面会時の土産として持って行ったお菓子も、2人で仲良く分けて食べているとのことでした。母が少し熱っぽかったり、トイレに行くときに足下がふらつくようなときは、Iさんがナースコールで看護師さんを呼んでくれたりもしているそうです。

看護師さんから聞いたところによると、Iさんは入院歴20年以上の長期入院患者で、家族が面会に来ることも全くないとのこと。自分から他の患者さんとトラブルを起こすこともないので、状態の不安定な患者さんと同室になってもらうことが多いそうです。

あるとき、母が少しはにかみながら、「私、入院して良かったと思うことが2つある。
1つ目は孝治と毎週会えること、2つ目はIさんと知り合えたことだ。Iさんのことは、本当のお姉さんのように思っている」と言ったことがあります。病院の住所などをメモにとり、自分が退院したあとは手紙を書いたり、通院の際に病棟まで面会に来たりといった約束もしているそうで、交友関係の狭い母にとっては良い出会いになったのかなぁ、などと思っていました。

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