親ケア奮闘記Part4【激動編】

【激動編・第39回】退院の日。 その1

最後の外泊にしましょう。

母の退院は、主治医のさりげないひと言で決まりました。

いつものように実家で外泊させるために母を迎えに行き、病院から出ようとするときに、玄関まで見送りに来た主治医が「今回を最後の外泊にしましょう」と言ったのです。

「え?」
「先生?」
「もう外泊できないんですか?」
私と両親は、最初、主治医の意図がわからず、要領を得ない返事をしてしまいました。

主治医が穏やかな笑顔を浮かべながら「いえ。横井かつ子さん、よく頑張りましたね。
最近の様子を見ていると、定期的に通院さえしてもらえば、もう、自分のお家で暮らしてもらっても大丈夫だと思います。
今回の外泊の際に、いつ退院するかをご家族で話し合ってください」と言葉を続けてくれても、私たち家族3人は、それぞれ顔を見合わせて、少しの間キョトンとしてしまいました。

最初に言葉を発したのは父でした。
「先生、退院って……」
「はい。今度の外泊を通して、特に問題がないようなら退院してもらいます」
「やった、やったがや! 母さん、退院だがや!」
満面の笑みと言えばよいのでしょうか、心の底から嬉しそうな顔で、今にも踊り出さんばかりの様子です。

次に言葉を発したのは、私です。
「先生、すべての問題が無くなってから退院の話をするはずだったんじゃ……」
「えぇ、その通りです。今回、『問題がなければ退院できる』とお話しするのも、 念のためのテストみたいなものです。プレッシャーに耐えられるか、という」
「……なるほど」

母は、言葉を発することができませんでした。
その顔を見ると、目からひと筋の涙がこぼれ落ちています。
その涙は、母の気持ちを何よりも雄弁に語っているようでした。

今日はご馳走だがや。

病院を出て、実家に向かう車の中でも父は大喜びです。
「母さんの退院が決まったがや! 今日はご馳走だがや!」

「まだ、安心するのは早いって。『今回の外泊でも問題なければ』と先生が言ってただろ」
と私がたしなめても、「関係ないがね。今日でもう退院にしてしまえばよいがね」と、
無茶苦茶なことを言っています。

「後で厳しく叱ってやるから、覚悟しておけ」と心のなかでつぶやきながらも、私自身、母の退院まであと一歩のところまで来た嬉しさに、自然と口元がほころんできます。

主治医には、要介護認定をとったり、住環境を整えたりといった退院に向けた準備が進んでいることを伝えていました。
そして主治医も、両親が2人だけで暮らすのではなく、介護サービスなどを利用しながら、周囲のサポートを受けながら暮らすということに喜んでいました。

電話を通じて私と2人で話すときにも、「入院の経緯を考えれば、ご両親だけで家に籠もって暮らすのは避けるべきでしょうね。
 横井さんにはときどきご実家に顔を出していただきたいのですが、 普段の日でも、なるべくご両親と誰かが顔を合わせるような機会をつくってください」と、繰り返し語っていたぐらいです。

今回、主治医が両親の前で「退院」という言葉を使ったのは、受け入れ体制が整ったと判断してのことなのは、疑う余地がありません。
そして、母が介護サービスなどを受け入れる気になってくれたのは、ケアマネジャーであるKさんの、機転の利いた話のおかげ。

高いテンションのまま、どんなご馳走が食べたいかを語る父をいなしつつ、私はKさんに早くお礼の電話をしようと考えて車を走らせました。

【激動編・第40回】退院の日。 その2については、こちらへ。

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