介護のコラムを読む

親ケア奮闘記Part4【激動編】

戻る

【激動編・第38回】再び、退院に向けて。 その5

なんか、イヤだがや。

実家のリフォームは順調に進みました。
段差などの問題もかなりの部分が解消して、入浴時に転倒する危険性も、かなり軽減できそうです。

別途、「特定福祉用具の購入」という制度を利用して、1割負担で背の高いお風呂椅子(シャワーチェア)を購入し、お風呂については大丈夫かな、という感じになりました。

しかし、このシャワーチェアについては、両親とこの後、1年間近く戦うことになります。
何度使用するように促しても使ってくれないのです。 従来通りの低いお風呂椅子を使い、尻もちをついたりしています。

「なんで、これだけ言っても新しいお風呂椅子を使わないの?」
「なんか、イヤだがや」
「買って上げたときは、『これで安心だ』と喜んでたくせに」
「あのときは、なんかプレゼントされて嬉しい気分になったんだがね」
「なら、使えよ」
「わかった、わかったて……」
「じゃあ、古いお風呂椅子は捨てるね」
「そんなことされては困るがや!」
「だって、新しいのを使うなら、古いのは要らないだろ?」
「新しいのなんか、使うもんかね」
「だから、言うことを聞けって!」
「わかった、わかったて……」
などという会話をいつも繰り返し、結局は使わないまま。
主として嫌がるのは父。母はそれに同調するといった構図です。

結局、あるタイミングで私が古いお風呂椅子を強引に捨てたことで、しぶしぶ新しいものを使うようになりました。

後日、ケアマネジャーのKさんにこのことをボヤいたところ、「ご高齢の方は、いくら便利・快適になろうとも、それまでと何かが変わるというだけでイヤがる方が多いですから」と慰めの言葉をもらいました。

「子の心、親知らず」

この言葉は、介護スタートから10年以上経った今でも、私自身がつくづく感じさせられるものです。

息子に迷惑を、かけないよう、お願いします。

母の要介護認定の訪問調査は、入院している精神病院で行うことになりました。通常なら自宅で行うことになるのですが、知らない人から質問攻めにされた後、母の精神状態が不安定になる危険性があることや、この1年ほどの日常の様子を一番詳しく把握しているのが病院の看護師たちであることから、Kさんとの相談でそのように決めたのです。

当日は朝一番の電車で大阪から三重に向かい、病院へと駆けつけました。父は実家で留守番です。

母の病室に着き、しばらく雑談していると調査員も到着。そのまま認定調査が始まりました。

身体の状態など調査員の質問に対して、母は緊張した表情ながらも一つひとつ回答していきます。言葉に詰まったり、「○○ができます」などと事実に反することを回答したときのみ、私が横から口を出すといった感じで、一通りの質問が終了。
最後に調査員からの質問がありました。「調査票には特記事項という欄があるのですが、特に伝えたいことがあれば言ってもらえますか?」

回答しようとする私を制するように、母が素早く言葉を発しました。
「私は、長い入院で、息子に、迷惑をかけました。よくわかりませんが、保険のほうで、いろいろと助けて、もらえるようで、ありがたいと思っています。なるべく、息子に迷惑を、かけないよう、お願いします」

緊張のためか、まだ向精神薬の副作用が抜けていないためか、たどたどしい話し口ながらも真剣に訴える母。その深々と頭を下げる姿に、私は少しの間言葉を忘れてしまいました。

調査員も心を動かされたようで、「これまでいろんな方の調査に伺いましたが、こんなにご家族を思いやっている本人さんは初めてです。及ばずながら私も、退院された後の生活がうまくいくように努力しますね」と言ってくれました。

その後は、Kさんとあらかじめ話しておいた補足点を私から説明。何かと世話をかけるであろう父との2人暮らしへの懸念なども伝えました。

後日、母は要介護3と認定されることになります。

親ケア.comオンラインサービス「繋がる」
おやろぐ