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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第37回】再び、退院に向けて。 その4

嫁にほしいぐらいだ。

母の同意を取り付けた後のKさんの対応は、実に手早いものでした。

両親の抵抗感が強いであろうホームヘルパーの利用については話題に出さず、配食サービスやデイサービスの利用などを簡潔に説明し、利用について母の同意を取り付けたのです。

さらに、事前に用意していた要介護認定の調査依頼書を取り出して私に署名・捺印を求めると、その場で認定調査の仮アポまで入れてしまいました。

実家の介護リフォームについても、翌朝、リフォーム業者が来るタイミングに合わせて立ち会ってくれるとのこと。なんとも頼もしい限りです。

その後、Kさんは10分ほど雑談をして帰って行きました。母はKさんのことをかなり気に入ったようで、別れ際には「孝治が結婚していなかったら、嫁にほしいぐらいだ」などと言い出す始末。他の利用者さんにも同様のことを言われているのか、Kさんは笑顔を絶やさぬようにしながらうまくかわしていました。

Kさんが帰ってから夕食までの間は、どこまでの家事を母にまかせるかについて、母と2人で話し合いました。もちろん父は、その間はずっとゲームに夢中です。

「もう、なんでもできる」と主張する母をなだめながら、結局は、両親が暮らす実家の1階部分の掃除と洗濯だけをまかせることに。

朝食はインスタント食品、昼食と夕食は配食サービスを利用するので料理は禁止です。

ゴミ出しについては、3〜4週間に一度、ゴミの日にタイミングを合わせて私が帰省し、まとめて捨てるということになりました。家で料理をしないので、主なゴミは新聞やインスタント食品の包装材、空のペットボトルなど。さほどの量にはならないはずです。

風呂やトイレ、2階部分の掃除、庭の手入れについては、私が受け持つことにしました。

ここで母と決めた家事分担の合意内容について、後日、主治医に報告したところ、「すべての家事を取り上げると、逆にストレスを溜める原因にもなるので、ちょうど良いぐらいでしょうね」とのことでした。

ご褒美がほしいがや。

「翌朝、朝食が終わって、両親にお茶を飲ませたりしていると、Kさんが約束通り来てくれました。その直後、今度はリフォーム業者の営業が到着。あいさつや名刺交換などもそこそこに、実家の改修すべきポイントを見てまわることに。

玄関の段差、居室と廊下の間の段差、トイレやお風呂への手すり設置など、私が気にしているところを伝えると、Kさんとリフォーム業者は介護リフォームのポイントについて次々とアドバイスをしてくれます。

結局、想定される両親の動線をもとに、次のような介護リフォームを行うことになりました。
・段差が急な玄関の上がり口に踏み台を設置。
・玄関の壁にL字型の手すりを設置。
・トイレのドアを引き戸にし、廊下との間の段差を解消。
・トイレの壁にL字型の手すりを設置
・居室と廊下の間に室内用の小型スロープを設置し、段差を解消。
・浴室の壁面にL字型およびI字型の手すりを設置。
・浴室の洗い場にすのこを設置し、脱衣場との間の段差を解消。

また、介護保険の1割負担分とは別に、次のリフォームも依頼することにしました。
・浴室の蛇口を、簡単に操作できるものに取り替え。

一通りの相談が終わると、Kさんは別件があるとのことで帰って行きました。

あとは、細かい部材の選定や書類作成などの役割分担、スケジュールの確認を行うだけになり、私とリフォーム業者はリビングで打ち合わせを行うことに。

費用的にも、介護保険の「住宅改修」範囲の20万円(自己負担2万円)に、蛇口取り付け分をプラスして支払う形で収まりそうでホッとひと息といったところです。そうしたなか「ちょっと、見積もってほしいところがあるがね」と、父が急に割り込んできました。

「ん? 何かほかに気になるところがある?」
「大ありだがね。ちょっと外に出てみぃ」
「外?」

父について私たちが玄関の外に出ると、父は門扉のところを指していました。
「アレも、取り替えてほしいがね」
「門扉は別に困ってないだろ」
「車の出し入れのとき、開け閉めするのが面倒だで」
「でも、介護リフォームの対象じゃないから」
「ガラガラッと横に引くヤツにしたいがや」
「イヤ、だから……」

結局「母さんのいない間、ワシもずっと我慢してきたんだから、ご褒美がほしいがや」
というワケのわからない理由で私が押し切られるのは、それから5分ほど後のことでした。

つまらないところでケンカして、母に動揺を与えたくありませんでしたし、母にまで「孝治、頼む」と言われてしまいましたから。

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