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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第36回】再び、退院に向けて。 その3

少しツライことを聞きますね。

Kさんと母の2人は、それから10分ほど楽しげに話をしていました。話がけして上手とは言えない母をKさんがうまくリードし、次から次へと言葉を引き出していきます。その傍らで、相変わらず父はゲームに熱中。2人には目もくれません。

話にひと区切りがついた頃、Kさんは本来の用件を切り出しました。
「かつ子さん、孝治さんが昔からやさしいお子さんだったのはよくわかりました。そんな孝治さんが、今のかつ子さんをとても心配されているのはわかりますよね?」
「えぇ、それは」
「お仕事も忙しいのに、毎週、大阪から帰ってきて、病院に行ったり、家事をやったりと大忙しですし」
「えぇ、だから私が退院したら、また元通りに頑張らないと」
「孝治さんが一番心配しておられるのも、そこなんですよ」
「そう、だから頑張らないと」
「かつ子さん」
「私が頑張らないと……」

「かつ子さん、待ってください」

Kさんは、それまでの穏やかな声とは打って変わって、少し強い口調で母が話すのを止めました。

「かつ子さん。孝治さんが今、何を心配しておられるのかわかりませんか?」
「だから、孝治に世話をかけないように……」
「孝治さんは、お世話をすることを嫌がってはいませんよ」
「いや、でも、いろんなことをやらせるのはかわいそうだから」
「それでも、構わないと言っておられますよ」
「でも、これ以上孝治に迷惑をかけるのは……」
Kさんの口調の変化に少し戸惑いながらも、母は食い下がります。

「孝治さん、かつ子さんのお世話をするのはイヤですか?」
Kさんは急に私のほうを見て、尋ねてきました。
「いえ、そんなことはないです」と、即答する私。
「じゃあ、少しツライことを聞きますね」
「はい」
「孝治さんは、かつ子さんが病気になって、どう思いましたか?」
「……最初は驚き、そして落ち着いてからは、ただただ悲しかったですね」
「では、かつ子さんの病状が、また悪化したらどう思いますか?」

イヤに決まっとるがね!

「そんなの、イヤに決まっとるがね!」
ゲームに熱中していたはずの父が、大声で割り込んできました。

「母さんがおらんと、寂しいがね!」
「父さん……」

「1人でご飯を食べるのは、寂しいがね!」
「お父さん……」

「母さんと一緒に、また散歩がしたいがね!」
「陸夫さん……」

私、母、Kさんは、急に主張をはじめた父に驚きながらも、それぞれに感じるものがありました。

「ワシは、ワシは……」
「父さん、わかったから。Kさん、私も同じです。母には二度と病状が悪化してほしくないし、穏やかに暮らしてもらいたいです」
私は興奮する父をなだめながら、Kさんに答えました。

Kさんは、再び母のほうに向き直り、今度はやさしく声をかけました。
「かつ子さん、あなたは幸せですね。こんなにお母さん思いの息子さんと、奥さん思いのご主人がいるんですから」

「……」
母も、父と私の言葉に心が動かされたのか、心なしか目が潤んでいるようです。

「かつ子さん、孝治さんが一番に心配しているのは、かつ子さんが頑張りすぎて、また調子を悪くしてしまうことなんです。そうならないように、孝治さんも私も、一生懸命に知恵を絞って、サポートしたいんです」
Kさんが話を続けます。

「かつ子さん、お願いです。孝治さんと陸夫さんのために、かつ子さんが頑張りすぎないお手伝いをさせてもらえませんか?」

「……よろしくお願いします」
じっと母の目を見つめて語りかけるKさんに対し、母はゆっくりと頭を下げました。

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