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親ケア奮闘記Part4【激動編】

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【激動編・第35回】再び、退院に向けて。 その2

結構、良いところだと思いますよ。

Kさんに促されるままに席を外した私は、リフォーム会社に電話を掛けました。この会社は、地元のショッピングセンターでよくリフォームフェアを行っており、以前から名前を知っているところでした。

また、折り込みチラシもコンスタントに配布しており、いつも「介護リフォーム、相談から手続きまで一式行います」と大きく掲載されていたので、母の具合が悪くなって以来、秘かに注目もしていました。

相談時、K さんにこの会社の評判などを尋ねたところ、「結構、良いところだと思いますよ。面倒な手続きも代わりにやってくれるので、大阪から通っている横井さんにはピッタリなんじゃないですか」との回答。早速連絡してみたというわけです。

電話口に出た相手に要件を伝えると、翌朝なら見積もりのための下見に来てくれるとのことなので、すぐに依頼をしました。

介護保険で介護リフォームを1割負担で行えるのは、20万円分まで。どの程度までの工事ができるのかなぁ、などと考えながら両親とKさんのいる リビングに戻りました。

うちの大事の息子だから……。

戻った私が最初に目にしたのは、機嫌良さそうにKさんに何かを語る母の姿でした。

人見知りの激しい母が、短時間で他人に心を許すというのは、息子の私にすればかなりの驚きです。いくら愛想よく振る舞っていても、それが相手に気に入ってもらうために必要以上に演技しているものなら見抜く自信があったのですが、ごく自然体で話しているようでした。

「……なるほど。今では、すごくお元気なのに、小さい頃はそんなに身体が弱かったんですね」
「いっつも病院に連れて行ったり、往診に来てもらったりで……」
どうやら、私の小さい頃の話をしているようです。
Kさんの手には、1枚の写真が握られていました。

母の横に並ぶようにソファーへ腰掛けると、母が「もう用事は終わったか?」と尋ねてきました。
「あぁ、済んだよ」
「今、かつ子さんに、孝治さんの子どもの頃のことを聞いてたんです」
「へぇ」
「うちにも中学生の息子がいるんですけど、どうやったらこんなに親思いの人に育つのかって、コツを教えてもらおうと思って」

それを受けて、母が少し誇らしそうな顔で「そりゃ、うちの大事の息子だから……」とつぶやくのを見て、Kさんのスゴさに改めて驚かされました。

女親に対して、相手の息子を褒めて歓心を得るのは、セールスなどでも常套手段として使われる手法です。しかしそれを短時間で、なんの嫌味もなくやってのけ、人見知りの激しい母の心をつかんでしまうとは。

Kさんが手にしていた写真は、幼稚園時代の私を写したものでした。後でKさんにこっそり聞いてみたところ、以前、父からこの写真を見せられた際に「いつか使える」と考えて、父の承諾のもと何カ月も保管していたとのこと。

やっぱりプロは違うなぁ、と感心するしかありませんでした。

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