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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第23回】サービスを利用したいけど。 その5

ボクはどうすれば良いんでしょうか?

父に対するKさんの語りかけは、あくまで優しく、そして諭すかのようでした。
「横井さんは、息子さんや奥様のために、いつまでも元気でいたいとは思いませんか?」
「それは、もちろんです」
「でも、毎日毎日スーパーのお弁当やレトルト食品ばかりでは、栄養が偏ってしまいますよね」
「えぇ、それは確かに」
「横井さんが入院されたのも、自分がバランスの取れた食生活をさせてやれなかったせいじゃないかと、息子さん、随分と反省しておられましたよ」

実際のところ、私はKさんに対してそんなことを言っていません。ただただ「うまいなぁ」と感心しながら、2人の話に耳を傾けるだけでした。

「息子は、よくやってくれてます」
「そうですよね。私も仕事柄、多くのご家族とお会いするんですが、こんなに親御さん思いの息子さんは見たことがありません。でも、そんな息子さんが、自分だけでは満足なことができないと悩んでおられるんです」
「そんな……。ボクはどうすれば良いんでしょうか?」

父が「ボク」といった瞬間、私は「来た!」と思いました。以前から父は、自分のことを認めてほしい、この人は自分より格上なんだと感じた相手と話すときは、一人称が「ボク」となる癖があったからです。それはまさに、Kさんが父の心の扉を開けた瞬間でした。

しかしKさんは、父の問いかけにすぐ答えるのではなく、「横井さん、おいしくて栄養のあるものは好きですか?」と、あえて話をそらせるようなことを言いました。

「はぁ……。もちろん大好きです」
「毎日、そんなおいしいお弁当が家まで届いたら、便利だと思いませんか?」
「えぇ、確かに」
「実は、この事務所の横の建物で、そうしたお弁当を作って、いろんな方のご自宅まで届けるというサービスをしているんです」
「はぁ……」
「でも、あんまり高いと、家計の心配もありますからイヤですよね?」
「そうですね」

ここで一度、Kさんは私に質問を投げかけました。
「息子さん、今のお弁当代っていくらぐらいですか?」
「1食、600円ぐらいですね」

ぜひ、うちもその弁当をお願いします。

Kさんは、再び父のほうに向かって話を続けます。
「横井さん、スーパーのお弁当に飽きたりしていませんか?」
「でも、ボクは自分で作れませんから……」
「横井さんぐらいの年齢の男性が料理ができないのは、別に恥ずかしいことじゃないんですよ。それだけ一生懸命に働いて、ご家族を支えてこられたということですし」
「えぇ」
「でも、毎日同じようなお弁当だと、嬉しくはないですよね。揚げ物とかも多いので、年輩の方にはくどかったりしますし」
「はぁ、確かに」
父は申しわけ無さそうに私のことをチラッと見た後、頷きました。

「うちのお弁当は、専門の栄養士が栄養のバランスを考えながら、毎食いろんな料理を作っているんです」
「ほぉ……」
「私もほとんど毎日食べているんですが、おいしいですよ」
「へぇ」
「さっき、今、横井さんが食べているスーパーのお弁当のお値段が、600円ぐらいだと息子さんが言ってましたよね」
「はい」
「うちのお弁当は、1食あたり450円です」
「えっ」
「お昼と夜の2回、土日もお盆も、お正月もお休みなしで、ご自宅までお届けします」
「……本当ですか?」
「もちろん」

ここで私が口を挟みました。
「母の面会などで外出して、そのまま外食する場合はどうすれば良いんですか?」
「当日の朝までにお電話いただいたら、キャンセルということで費用はいただきません」
「料金は、お弁当が届いたときに渡せば良いんですよね」

我慢できないのか、ここで父が割って入りました。
「ぜひ、うちもその弁当をお願いします」
「えぇ、もちろん」

こうしてまず、配食サービスを利用することが決まりました。

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