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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第19回】サービスを利用したいけど。 その1

やっかいなお年寄りがよく来るんですよ。

町役場で教えてもらった、高齢者福祉の専門部署の入っている庁舎に到着した私は、早速、窓口に向かいました。

すると、先客として来ていた70歳ぐらいのおじいさんが、何事か大声で叫んでいます。
窓口の職員を見ると、少しうんざりした顔をしながらも、「はい、それは大変ですね」などと言葉を返し、軽く受け流している様子。最初のうちはよく聞き取れなかったおじいさんの声に注意深く耳を傾けると、「ワシは人の命なんて何とも思っていない」「お前らはみんな人間のクズだ」「毎日、ワシを独りにするな」などと言っていました。

そうしているうちに職員が私に気がつき、おじいさんに対して「じゃあ○○さん、よくわかったのでお帰りください」と声をかけました。
さらに「ワシはなぁ、ワシは……」と言いつのるおじいさんに対し、「次の人が来ていますから。迷惑かけちゃダメですよ」とダメ押しの言葉。
おじいさんは私のほうを振り返り、「覚えとけよ、絶対に許さんからな!」と捨て台詞を吐いて、去っていきました。

一連のやりとりにとまどいを隠せない私に対して職員は、「よくあることなんで気にしないでください。やっかいなお年寄りがよく来るんですよ」と言いました。さっきのおじいさんは、自分に対するサポートをもっと手厚くしてほしいとよく交渉に来るものの、すぐに興奮して支離滅裂になってしまうとのことでした。

その愛情のない言い方に、複雑な気持ちになりつつも用件を伝えると、「では、この町が提供している高齢者向けサービスを説明します」とのこと。職員はカウンターに資料を広げ、一つひとつのサービスを説明してくれました。

……いません。

さまざまなサービスのなかで、私が興味を覚えたのが配食サービス、緊急警報通報装置の貸与、生きがいデイサービスの3つでした。

配食サービスは、その名の通り自宅まで食事を届けてくれるサービスで、栄養士が作った昼食と夕食をそれぞれ450円で自宅まで届け、料金を受け渡しする際に安否の確認を行うというもの。放っておくと自分の好物しか食べない父を抱える私にとっては、願ってもないものです。

緊急警報装置の貸与は、高齢者の家に通報用の端末を設置し、何か急なことが起こった際にボタン一つで警備会社に通報できるというもの。手続きさえ行えば、無償で設置・貸し出しを行ってくれるそうです。

生きがいデイサービスというのは、当時、実家のある町が行っていた事業で、介護保険の要介護認定を受けていなくても65歳以上であれば、週に1回、デイサービスとして受け入れ、食事、入浴、レクリエーション、健康チェック、送迎などを行ってくれるというもの。これも、父をずっと実家に独りきっりでいさせるより、安心な気がします。

これらのサービスを利用したいと私が言うと、職員はそれぞれの申請方法を教えてくれました。それによると、緊急警報装置の貸与はここで書類をもらえるものの、配食サービスと生きがいデイサービスについては、もう一度役場の本庁に戻って書類をもらう必要があるとのこと。

面倒ではありますが、うまく使えば現状の不安がかなり解消するわけですから、素直に了承しました。

「で、緊急警報装置の通報先は、警備会社のほかにどこにしますか?」
「あ、それは私宛でお願いします」
「いや、申しわけないですが、連絡先はこの町の町民の方でないと駄目なんです。横井さんは大阪にお住まいですから対象外ですね」
「じゃあ、このサービスは使えないんですね」
「いえ、誰か町民の方で、何か緊急事態が起きたときに、駆けつけてくれる方がいれば、それで良いんですが」

定年間近に津の市街地からその郊外にある町の新興住宅地に引っ越した私の両親は、近所付き合いが下手で、ほとんど2人だけで過ごすしてばかり。過去、老人会などへの参加やゲートボール仲間に入れてもらうことを私が勧めても、「そんな年寄りくさいもの、馬鹿らしいがや」と言って拒み続けており、そこまで手を差し伸ばしてくれるような人は、思い当たりませんでした。

「……いません」
「え? いやでも1人ぐらい」
「だから、緊急事態に助けてくれそうな人はいません」
私はそう伝えるしかありませんでした。

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