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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第5回】父の異変。 その4

家に帰って、休もうか。

母を病棟まで送り、待合室に戻ってくると、父は大人しくベンチに座っていました。手には、私を待つ間に飲むように買い与えたスポーツドリンクの缶が握られています。表情は、先ほどに比べると、かなり落ち着いたように見えました。

「父さん、調子はどう?」
「……だいぶん良くなったがね」
そう答える父の声は少しかすれていましたが、大きな問題はないようです。

「取りあえず家に帰って、休もうか」
「はい、すいません」
駐車場から病院の入り口まで車を回してから、父を乗せ、一路実家に向かいました。

病院から実家まで、車で1時間ほど。父は助手席でシートを倒し、目をつぶっています。
ポツポツと雨が降り出し、やがて本降りになってきました。
「ちょっと激しく降ってきそうだなぁ。父さん、早めに病院を出て、良かったかもしれないね」
「……。ん……」

眠ってしまったのかと思いながら、父の様子を横目で見たら、ひどく息苦しそうにしています。
「父さん、どうした?」
「あ……。う……。大丈夫……」
どう見ても大丈夫な感じではありません。すごく気になるものの、多くの車に囲まれながら国道を走っている状況のため、急に停まるわけにもいきません。

「あと15分ぐらいで家に着くから。それまで頑張れるか?」
「……はい」

信号待ちの際、改めて父の様子を見ると、顔色が白くなり、うなされているような感じでした。手に持っていたはずの飲みかけのスポーツドリンクは、足元に転がり、ズボンがびしょびしょになっています。

「とにかく、もうすぐ家に着くから」
そのとき私にできたのは、ただ一生懸命に運転することだけでした。

体裁、悪いがね。

私にとってはかなり長く感じられる15分が過ぎ、ようやく実家にたどり着いたとき、父は息も絶え絶えといった様子。家の前に車を停めると、父を抱きかかえるようにしながら寝室へと運びました。

父は全身から汗を流しており、身体も震えています。濡れたズボンを脱がし、パジャマのズボンには着替えさせたのですが、ぐったりとして、協力するそぶりもありません。

「父さん、俺がわかるか?」
「う……」
「救急車、呼んでやるから、ちょっと待ってろ」
「ダメだ!」

私が「救急車」という言葉を口にした瞬間、父の目がカッと見開き、拒絶の言葉が出ました。

「なんでだよ」
「……そんなもん呼んだら、体裁、悪いがね」
「そんなこと気にしている場合じゃないだろ」
「イヤなもんは、イヤだがね! 家で寝ていれば治るがね!」
父は、幼い子どものようにイヤイヤと首を振っています。

こんなことで言い争って、体力をなくさせては、ますます悪化するかもしれない。そう考えた私は、「じゃあ、俺が病院に連れて行ってやるから」と言いました。

「……え?」
「救急車じゃなければ良いだろ?」
「家にいれば大丈夫だと、思うがね……」
救急車を呼ぼうとしたときに比べ、拒み方が弱くなっています。
「早速、病院に電話するから、待ってろ」

電話帳で実家から車で3分ぐらいの内科クリニックを見つけ、電話を掛けました。土曜の夕方近く。普通なら休診ですが、運良く繋がりました。

手短に状況を説明すると、「すぐに連れてくるように」とのこと。急いで父の寝室に戻ると、父は目を開いてはいるものの、焦点が合っていないように思えました。

「父さん、○○クリニックに行くぞ」
「……え? 孝ちゃん、なんでここに?」

肉体的なしんどさのあまり、意識や記憶が混沌としているのでしょうか。かつて父が脳出血で倒れたときのことが思い出され、私は内心、真っ青になりました。

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