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親ケア奮闘記Part3【迷走編】

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【迷走編・第2回】父の異変。 その1

戻らぬ父。

4月下旬、土曜の朝。
私はいつものように津駅前で父と待ち合わせをして、母が入院している病院へと向かいました。この頃になると、父の運転も落ち着いたものになり、残業続き&毎週の帰省で疲れている私は、助手席に座ることが増えていました。

運転中、1カ月ほど前にいきなり反対車線を走ったことについて改めて父に尋ねると、「母さんが入院したりして、ワシもオロオロしとったがね」とのこと。まぁ、それも仕方ないかなぁ、などと考えていました。

その日は、11時過ぎに津駅前から出発して、途中のスーパーで母の薄手の下着やおみやげの果物を購入。昼食の時間になったので、面会する時間の調整も兼ねて、近くのファミリーレストランに入りました。

「本日のオススメ」と書かれたハンバーグランチを頼んで待っていると、父がトイレに行きました。5分ほど経って、席に料理が並んでも、まだ父は戻ってきません。大のほうなら普段でも30分以上はトイレに籠もる父のことなので、私も待たずに食べ始めました。ところがその日はいつもと違って、30分が過ぎても戻ってきません。

「よほどの便秘なのかな?」などと思いながら、さらに10分ほど待ったのですが、いっこうに戻ってくる気配がないので、さすがに心配になり、トイレへと様子を見に行くことにしました。

トイレのドアの前に立ち、「父さん?」と声をかけると、小さな声で「……孝ちゃん?」との返事。
「ずいぶん長く入ってるけど、どうしたの?」
「大丈夫だがね……」
「大丈夫なら、早く出ておいで。母さんに会いに行くのが、遅くなっちゃうし」
「うん……」

ドア越しに聞こえる父の声は、つい先ほどまで運転していたときと違い、弱々しいものに感じられました。

「もしかして、お腹が痛かったり、気持ち悪くなったりした?」
「大したことないがね……」
「とりあえず、このドアを開けて」
「恥ずかしいがね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。早く開けて!」

閉鎖病棟から出ても良い。

カチャ。
ドアを開けると、そこには用を足して水を流した後、下着やズボンを上げかけた状態で床にへたり込んでいる父の姿がありました。

「父さん、どうした?」
あわてて私が抱きかかえようとすると、父は「ちょっと、ふらついただけだがね」とのこと。とりあえず父を洋式便器に座らせ、顔色を見るとかなり青くなっています。

「ちょっとにしては、顔色悪いぞ。病院に連れて行ってやろうか?」
「大丈夫だがね……」
「でも」
「今日は朝からちょっと熱っぽかったから、風邪だがね。母さんに会ったら、すぐに家に帰って寝るから大丈夫だがね」
おでこを触ってみると、確かに少し熱っぽい感じがします。

「わかった。昼飯、少しは食えるか?」
「食べてみるがね」
席に戻ると、そこにはすっかり冷め切ったハンバーグ。半分も食べないうちに、父は「もういらん、マズイがや」と言いました。

「やっぱり、気持ち悪いんじゃない? 無理せずに、今日は帰るか?」
「冷めてるから、マズイだけだがね。会いに行かないと、母さんが心配するがね」
「……わかった。じゃあ今日の面会は、なるべく短めにしよう」

会計を済ませ、今度は私がハンドルを握りました。母が入院している病院に着いたのは14時過ぎ。予定より1時間ほど遅くなっていました。

病棟のナースに声をかけると、面会室は先客が使っているため、閉鎖病棟の外に出て、適当な場所で面会してほしいとのこと。昨日の診察で、主治医から看護師や家族などが付き添っていれば、病院の敷地内なら閉鎖病棟から外に出ても良いとの許可が出ている、と教えてくれました。

付き添い必須、そして病院の敷地内だけとはいえ、これは間違いなく母の病状が良い方向に向かっている証しです。父に対する心配の念はどこかに行ってしまい、私は母が病室からやってくるのを待ちきれない気持ちになっていました。

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