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親ケア奮闘記Part2【闘病編】

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【闘病編・第13回】入院の日。 その7

お前なぁ……。

「父さん、なんで母さんが入院することになったか、わかるか?」
「孝ちゃんや医者に連れてこられたから」
「違う。入院しないと良くならない病気になったから、だろ」
「あんなの、薬を飲んだら家でも治るがや」
「なんでそれがお前にわかるんだ?」
気がついたら、いつしか父の呼び名が
「父さん」から「お前」に変わっていました。

「どうせ、大したことないがね」
「だから、なんでお前にそれがわかる?大したことのない人が、包丁を逆手に持って立て籠もったりするか?」
「いや、それは……」
「なんともない人が、家の中に誰かが入って大事なものを奪っていくとか、家中に盗聴器が仕掛けられているとか、言ったりするか?」」
「それは勘違いしただけでは……」
「勘違いで、近所の家に勝手に入って行き、『言われたとおりに毒風呂に入るので、お金を返してください』なんて言うか?」
「母さんは、風呂が好きだから」

「お前なぁ……」
私は怒りを通り越して、あきれるばかりでした。
そして、ここまで愚かな父に、病気の母をまかせていた自分が許せない気持ちでいっぱいでした。

母さん、頑張れ。

「母さんはお前があちこちで遊びほうけたり、満足に家に金を入れなくても、文句一つ言わずに耐えてきたんだろ?で、お前に『金を出せ』って殴られても必死でへそくりを貯めて、家まで買ってくれたんだろ?好き放題やった結果、脳出血で死にかけてたお前を2年以上も必死で面倒見て、歩いたり車を運転したりできるほどにしてくれたんだろ?」
父はうつむいたまま、黙っています。

「去年の夏、『ワシが付いているから、母さんのことはまかせろ』とか、『ワシが母さんに恩を返す番だ』とか言ってたのは、嘘だったの?」
「はぁ、すいません」

いつもと変わらぬ心のこもらない謝罪の言葉を聞いて、私の怒りに再び火が付きました。
「お、ま、え、は、何回、言ったら、わかるんだ? 適当に謝って、ごまかそうとするんじゃね~よ」
怒鳴りつけたいのを必死で押し殺しながら、私は父のほっぺたを強くつまみました。
「い、つ、も、い、つ、も、ふざけた、ことを、言うのは、この口、ですか?」
「痛たたたた……。孝ちゃん、痛いがね」
「そりゃ良かった。まだ死んじゃいないようだな」

「ワシ、何か悪いこと言った?」
「もういい、とにかく、お前の面倒は俺が見てやるから心配するな。今、この場では、病院の中にいる母さんに『頑張れ』って声をかけてやってくれ」
「わかった。母さん、頑張れ」
「母さん、頑張れ」

こうして、私たちは実家へ向けてようやく出発しました。

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