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親ケア奮闘記Part2【闘病編】

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【闘病編・第4回】診察室での会話。

早く治したい。

診察室に入ると、50代と思われる医師が座っていました。内科などと同じく、ごく普通の雰囲気です。「患者さんは、こちらに座ってください。付き添いの方は、その横に」

指示に従って座ると、医師は問診票を見ながら質問をしてきました。
「いろんな心配事が出るようになったのは、いつ頃ですか?」
「えぇっと……」
「あ、息子さんじゃなくて、お母さんに答えてもらいたいんですが」

私としては心配で仕方がなかったのですが、医師の指示には従うしかありません。母はゆっくりと答え始めました。
「それまでもありましたが、去年の夏ぐらいからが特にひどいです」
「何か変な声が聞こえているようですが?」
「えぇ、『○○しないと殺してやる』とか『すべてを奪ってやる』とか、 いろんなことを言ってきます」
「そう言う声が聞こえてくるのは、イヤですか?」
「もちろんです。どうにかして変な声が消えてほしいです」
「ご家族の方は心配しているようですか?」
「はい。息子や主人のためにも早く治したいです」

母が医師の質問に答える間、私はバカみたいな顔でその様子を見つめていました。なんでこんなにしっかりと応対できてるの……?ついさっきまで「父さんがさらわれた」などと言っていたとは思えません。

「では次に息子さん」
「……あっ、はい」
「お母さんの様子が普通じゃないと気づいたときの話を聞かせてください」
私は昨年夏のことを中心に、これまでの経緯をかいつまんで話しました。
「なるほど。それは大変でしたね」
「いや、でも母自身がこうやって『治したい』と言ってくれてるんで嬉しいです」

変なところはありません。

「最後に、ご主人」
「はい」
「ご主人から見て、奥さんの様子で特におかしいと思うことはなんですか?」
「家の中で落ち着きなくウロウロしているぐらいで、特に変なところはありません」
「ちょ、ちょっと待って」
「息子さん、どうしましたか?」
「父さん、今日だって母さんに自分が死んだことにされて、役場まで大丈夫だって確認に行ってきたところでしょ?それ、十分すぎるぐらい変じゃない?」
「はぁ、すいません……」
「だから、謝らなくていいから。しっかりと母さんの様子を先生に伝えて」
「はい。最近あまりちゃんとした食事を作ってくれないんですが」

この時点で私はイライラしてきましたが、診察室で父を叱りつけるわけにもいきません。
「ほぅ、食事を作らない」
「はい。だからワシはお腹が減って、お腹が減って……」

医師は母のほうを向いて、質問をしました。
「奥さんはもともと料理が好きでしたか?」
「はい」
「じゃぁ、なんで料理をしなくなったんですか?」
「何かしようと思っても、いろんな声が気になってそれどころではないんです」

この後も、しばらく医師からの質問は続き、診察は無事に終了。診察費の精算が終わった後、待合室で母親をなだめてくれた看護師さんが処方せん薬局まで付き添ってくれました。

「今は苦しいかもしれないけど、うちの先生がきっと治してくれるから」
「はい」
「良い息子さんやご主人が付いててくれるんだから」
「はい」
私は看護師さんのかける声に応える母を横目に見ながら、苦労したけど、クリニックに連れてきて本当に良かったなぁ、などと考えていました。

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