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親ケア奮闘記Part1【発端編】

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【発端編・第13回】一緒に買い物。

昔話と母の笑顔。

大掃除と掃除道具の買い出しをダシにして、母をよくわからない不安から引き離す作戦に出た私は、ほんの少し前向きになった母の気が変わらないうちに出かけることに。

大きなショッピングセンターの駐車場に車を止め、店内に入った私たちは、掃除道具などの日用品を売っているコーナーへ足を運びました。
「買い物に来るのって久しぶりじゃないの?」
「……ここ数カ月は、家から外に出ていない」
やせ細り、歩くスピードもかなり遅くなってしまった母は、それでも私の問いかけに対してちゃんと答えてくれます。

「たまにはこうやって買い物に来るのも良いでしょ?」
「そうだなぁ……」
「俺が子どもの頃は、母さんと二人でよく買い物に行ったもんね」
「そうそう、お前がいつも○○スーパーの屋上の乗り物に乗りたがって、 さんざん遊んだ後は疲れてオンブさせられたりして大変だった」
「それ、いつも言われるけど、幼稚園に入る前の話でしょ」
懐かしい話をしながら、母は本当に久しぶりの笑顔を見せてくれました。

窓ガラスのクリーナーや新しい蛍光灯などを選びながら、私は内心「やっぱり外に連れ出して良かった。
こうして少しずつ心を解きほぐして、近いうちになんとか病院に連れて行こう」などと考えていました。

他愛もない会話が嬉しい。

掃除道具だけでなく、夕食のおかずなども買いたかったので、「歩き疲れた」という父を店内のベンチに座らせておくことにしました。
自動販売機で缶コーヒーを買い、「これでも飲んで待ってて」と手渡す私に、
父は「ありがとう」と答えます。

食料品売り場へ行くと、母は久しぶりの買い物が楽しいようで、「今日は孝治が好きな野菜炒めを作ってやる」と、私を引っ張るように野菜コーナーや精肉コーナーへと連れて行きます。

「母さん、あんまり作りすぎても残っちゃうから、もうちょっと少なめで」
「昔の孝治は、これぐらいでは全然足りなかった」
「いやだから、それは中学や高校の食べ盛りのときのことだし。 おじさんになった今、そんなに食べたら、身体に悪いって」
「じゃあ、果物はどうだ? ミカンやリンゴを買おう」
「まぁ、それぐらいなら」
そんな他愛もない話をしながら、翌日の朝食用にパンと牛乳、チーズ、そして母に勧められるがままに私の好きなビールも買い、父の待つベンチに戻りました。

しかし、そこに父の姿はありません。
「あれ? トイレでも行ったのかな?」と周囲をキョロキョロと見回す私。
「だから、買い物になんて来たらダメだったんだ……」
せっかくの和やかな空気が一変し、母の顔つきが、みるみるうちに険しいものに変わっていきます。

この後、母をなだめながらも店内を歩きまわり、ようやく父を発見するのですが、その姿に私はまた驚かされました。

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