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親ケア奮闘記Part1【発端編】

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【発端編・第12回】大掃除。

やはり復調なんてしていなかった。

1カ月半ぶりに実家に帰った私の目にまずとまったのは、前回の帰省時よりさらに荒れた様子の玄関でした。

以前は母がマメに手入れをしていた庭木は鬱陶しく茂り、玄関内に飾られていた花や観葉植物もすっかり枯れ果てています。

「お帰り……」
奥の部屋から出迎えに現れた父も、かなり疲れ切った様子でした。
「母さん、やっぱり調子悪いの?」
「すいません……」
「だから、適当に謝ってごまかすなっていつも言ってるだろ」
「ワシはもうワケがわからんです……」

ため息をつきながらも、このまま立ち話をしていても仕方がないと思い直し、私はリビングへと入りました。
すると、奥の部屋から母の鋭い声が。
「孝治、『帰ってきてはいかん』と言っただろう!」

少しは落ち着いてくれてるんじゃないかなどと、心の奥にあったかすかな希望的観測ははかなく消えました。

明るく、明るく。

前回と同じようなやりとりをひと通り繰り返し、私は母の状態が少しも良くなっていない、むしろ悪化していることがわかりました。ただ、頭ごなしに「病院へ行こう」と言っても、母の態度が頑なになってしまうのは容易に想像がついたので、萎えそうになる気持ちを奮い立たせながら、できる限り明るく振る舞うことにしました。

「年末、せっかく帰ってきたんだから、家を奇麗に掃除しようか?」と声をかけた私に対し、母の険しい表情が、ほんの少し和らいだ気がしました。母は無類の奇麗好き。息子と一緒に掃除することが、嬉しくないはずはありません。
「いろいろ心配事があるみたいだけど、汚いままより奇麗にしたほうが、ちょっとは良いこともあるんじゃない?」
「でも、私はそんな気分じゃ……」
「とりあえず、掃除道具を出そうか」

収納庫をのぞき込むと、ホコリをかぶった掃除道具一式が現れました。同じ洗剤が異常にたくさんあったり、逆にフローリングクリーナーが3本もあるのに、それに使う不織布が無かったりと、気になるところもいろいろ。
「よし、夕飯の買い物と一緒に、足りない掃除道具も買いに行こう」
「いや、私はこの家を離れたくない……」
「どんな掃除道具が良いのか俺にはよくわからないから、母さんが教えてよ」
とりあえず、引きこもり状態から少しでも解放しようと、私は一生懸命に母を説得しました。

「お前がそこまで言うなら、仕方ない」
そう言って外出の準備を始めた母の表情は、確かに微笑んでいるように見えました。

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