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介護の本書評「review-kaigo」

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第208回 黄落

老老介護の負を露わにする小説。

4101466076

黄落 (新潮文庫)
佐江 衆一

内容

還暦間近の夫婦に92歳の父と87歳の母を介護する日がやってきた。息子夫婦のいらだちが募り、夫は妻に離婚を申し出る。だが、それはお互いの溝を深めるだけだった。やがて痴呆を発症した母は父に攻撃性を剥き出し、やがて絶食して命を絶つ。そして夫婦には父だけが残った……。老親介護の実態を白日の下にさらす佐江文学の結実点。

書評

本書はフィクションの小説だが、介護経験者ならどのページにも思い当たる節がある、そんなリアルさが本書にはある。両親の介護は実質的に妻が行う。もちろん夫もしないわけではないが、圧倒的日本の家庭の現実は妻であり嫁である女性に介護の負担が掛かってくるのだ。やがて、その生活の中で妻の身体に異変が生じてくる。疲れとストレスによる不調だ。
そこで夫は妻に離婚を申し出る、妻のこと思って。

そんなストーレートな夫の言葉に妻はひと言「その前に、おばあちゃまのオムツをあなたが取り替えなさいよ」と。高齢者がいる家庭で似たような会話が交わされていることだろう。日本社会が介護問題についてその意識を変えつつあるといっても、介護の担い手である妻や娘への援助の方法はあまりにも少ない。介護される高齢者へのサポートも不十分だが、介護する家族にとっても状況は同じなのだ。

これからの日本人は、平均して人生最後の5年7カ月を要介護の状態で過ごすという。日常生活を営むために人の手を借りる期間を経ずして命を終えることは非常に難しくなるのだ。
人生は自立だけでは寂しい。自立しつつもどれだけ自分のパートナーと心を通わせることができるかも重要だ。多くの日本人は自分の最も近しい存在である夫や妻に対し、夫だから妻だからという枠組みの中で満足することなく、一歩踏み出して人間同士の付き合いをしていくことを意識しなければならないのだ。

本書は老いることや長い人生を生きることについて、とてつもなく多くの示唆を受られると感じた。

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