これからの高齢者医療に不可欠な考え方。
「老年症候群」の診察室 超高齢社会を生きる (朝日選書)
大蔵 暢
内容
日本の病院は、多くの健康問題を抱える高齢者が、どの診療科を受診すればよいかわからず病院内右往左往している。本書はそんな状況を一変させるかもしれない。日米の高齢者医療を知る新進気鋭の老年科医による「高齢者医療の教科書」と言える。
書評
世界に先駆けて超高齢化社会に突入した日本。高齢者は健康問題を複数抱えており、単独の科ですべてを診てもらうことができない。複数の持病を持つ高齢者は若年層に比べて医療機関にかかる機会がより多いために、病院は高齢患者であふれかえっている。筆者が20年前に医師になった直後に比べ、明らかに高齢者の割合や年齢が上がっているというから、その増加ぶりはかなりのものだと思われる。
複数の健康問題を抱える高齢者特有の身体的特徴=「老年症候群」とはどのようなものなのかについて解説されている。これは、認知症と行動、心理症状、せん妄、老年期うつ、転倒、慢性的なめまい、尿失禁など、さまざまな具体例を通して、高齢者の心身の虚弱化の仕組みとプロセスを示し、統一的な「包括的高齢者評価」を行って判断しているそうだ。
本書では、前半部分で高齢者の身体的特徴を虚弱化と老年症候群という概念を用いて説明している。後半部分ではそれらを踏まえて高齢患者耶蘇の家族、医療者がどのように考えて行動するべきかについて示唆されている。高齢者医療の課題である骨の健康や事実告知、胃ろう、入院加療の副作用、薬の服用などに対する対処法も示されている。本書はが世界トップクラスの長い長い老後をより良く生きるための一冊になるかもしれない。