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介護の本書評「review-kaigo」

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第180回 明日の記憶

記憶と引き替えに家族愛を手に入れた。

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明日の記憶 (光文社文庫)
荻原 浩

内容

ある広告代理店の営業部長・佐伯は50歳にして若年性アルツハイマー病と診断される。仕事では重要案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。病は妻との記憶も病は残酷に奪っていく。だが、失われゆく記憶の代わりに、佐伯を取り巻く家族や周囲の人々の愛が彼を温かく包み込む。

書評

広告代理店のバリバリの営業だった主人公が、若年性アルツハイマーと診断され、徐々に記憶の断片を失っていく様子が描かれている。大切な約束を忘れたり、手元に置いたものを忘れたり。自分の身体に「裏切られる」ことが増えてきた時、佐伯は「この身体は誰かからの預かりものではないのか」と思う。自分の身体なのに、自分の身体じゃない感覚。その感覚こそ若年性アルツハイマーの初期症状だったのだが、佐伯自身が疑ったのは「鬱病」だった。

病院の検査結果は「若年性アルツハイマー」。自分はこんなに元気で記憶も問題ない、と周囲に言う佐伯だが、少しずつ記憶を失いつつある現実が顔を見せる。記憶を失いつつあることを他人に知られることを恐れる佐伯。だが、病は少しずつ様々なシーンで姿を現すようになる。ほどなく営業職を離れた佐伯だが、結婚・出産を迎えた娘、そして妻のあたたかな愛情にポジティブな気持ちが生まれる。そしてある日、妻不在の時に目指したのは若かりし頃に訪れた窯元だった……。

若年性アルツハイマー病は、予防することができない。だが、どう付き合っていくかを考えていくことはできる。周囲が認知症を理解し支えること。そして、自分がアルツハイマー病に限らず、病気をしたときに支えてもらえるか、理解してもらえるかは、それまでの積み重ねによる信頼関係によるのだ。そう考えれば、がむしゃらに仕事するだけではなく、時々は立ち止まることも必要なのだと感じた。

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