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親ケア奮闘記〜ある日、親が壊れた〜


【発端編・第17回】わかった。病院に行こう。

 

元旦の独り言。


元旦の朝、私は夜が明ける前に目を覚ましました。
普段、遅くまで仕事をしていることもあって、休日はゆっくり朝寝をすることが多く、
なかでもお正月などは「寝正月」そのもので過ごすことも珍しくないのですが、
やはり私なりに妙な緊張があったんでしょうか。

母の様子が多少落ち着いている感じだったので
私は1Fにある両親の寝室ではなく、2Fの私用の部屋にあるベッドで寝ていました。
しばらくぼうっとした後、起き上がった私は、窓から夜明け前の寂しい街並みを見つめ、
これからどうしようかと改めて考えました。

年末、わずか数日ですが一緒に暮らしたことで、
母の精神状態はかなりマシなように感じられます。
このまま私が同居して四六時中そばにいたなら、さらに回復するような気もします。
「……こっちに帰って来ちゃおうかな」
そんな言葉をつぶやきながら、
それが現実にはない選択肢であることも私にはわかっていました。

当時の私の仕事は販促関連のプロデューサー。
大都会以外で、こんな職種の求人はまずありません。
かと言って、30代半ばから未経験の職種で転職先を探すというのもリスクの高い話です。
同居することで一時的に親は喜ぶでしょうが、
暮らしていくための金を稼げない状態で、
私の妻子や親、そして私自身が長く幸せに暮らしていけるとは思えません。

「いずれにせよ、やっぱり病院に連れて行くしかないよな……」
私が最初からわかっていたはずの結論に達する頃には、
窓の外の景色は白々と明るくなっていました。


孝治がそこまで言うなら……。


階段を下りると、既に母は起きていました。
「おはよう。そして明けましておめでとう」と声をかけると、
「あぁ、おめでとう」と返事をします。
どうやら、今日も調子は悪くなさそうです。

父が起きてトイレから出てくるのを待って、朝食が始まりました。
三重県の雑煮は、もち菜という小松菜の親戚のような野菜だけを入れ、
角切りのお餅をすまし汁に入れたシンプルなものです。
子どもの頃からずっとそれを食べてきたのですが、
このとき母が作ってくれた雑煮は、何か特別なものに感じられました。

ほどなくして朝食が終わり、
片付けようとする母をとどめて私は話し始めました。
「来週か再来週、有休を取ってまた帰ってくるから、
 そのときに一緒に病院に行こう」
母はハッとしたような目で私を見つめました。

そこへ父があわてて口を挟みます。
「母さんにはワシがついてるから大丈夫だ」
「黙ってろ」
「ワシから母さんを取り上げないでくれ」
「うるさいって言ってるだろ!」

父に構うことなく、母は私の目をじっと見ながら言いました。
「孝治は私が邪魔なのか?」
「そんなはずないだろ。今は少し調子が良いようだから、俺の言うことがわかるよな?
 俺はただ、前の母さんみたいによく笑って、明るく暮らせるようになってほしいだけだよ」
「……」
「やっぱり、これまで母さんが言ってることって、どう考えてもおかしいよ。
 病院って言うと怖いかも知れないけど、一緒に行ってあげるし、
 一度専門家の声を聞いてみよう」
「……わかった」
「え?」
「孝治がそこまで言うなら、病院に行こう」
「……うん。ありがとう」

情けない話ですが、
私はこのとき涙をこぼしそうになるのをこらえるのに必死でした。               (続く)

 

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