
【発端編・第16回】大みそか。
ざらついた床。
実家の大掃除や片付けがどうにか大詰めになったのは、私が帰省して丸4日後。 無理して長めの冬休みを取ったものの、あっという間に大みそかです。
私や母がせっせと掃除をしているなか、 父はリビングのソファーに居座り、 以前私がプレゼントしたゲーム機で将棋や囲碁などをして 大声で「よーし、勝ったがやー」などと嬉しそうにしていました。
「まぁ、邪魔さえしなければいいか」 私はそんなことを考えつつ掃除機をかけていたのですが、 さっき掃除したはずのリビングの床がどうもざらついているような気がします。 長年使い続けてきたカーペットが傷んできたのかと思ったものの、 もう一度掃除機をかけてみると何かを吸い込む手応えが。
不思議に思いながら別室にも掃除機をかけ、再びリビングに戻ってくると、 またもや足の裏にざらついたような感触が。 カーペットに顔を近づけて見てみると、 干からびた米粒やお菓子などのくず、切り終わった爪などが散らかっています。
私が顔を上げると、ちょうど父が鼻くそをほじり終えて、 それを床に飛ばすところでした。
「何やってるんだ?」 「鼻くそほじってたところだ」 「いや、それは見ればわかるけど、なんで床に捨てる?」 「こんなもん、とっといても仕方がないがや」 「いやいやいや、そうじゃなくてなぜゴミ箱に捨てない?」 「はぁ、すいません」 「だから『すいません』とか言いながら、残りを床に捨てるなって」
「父さんは、いつもそうだから」 いつの間にか私の背後にいた母が私に声をかけました。 この3日、私とベッタリ一緒に過ごしているせいか、 日中などは精神的に少し落ち着いているようです。
「いや、でもこれはダメでしょ」 「昔から脱いだら脱ぎっぱなし、食べたら食べっぱなし、 要らないものはなんでもそこらに捨てたり……」 「まぁ、確かに……」
そんなことを話しながら、再び父のほうに目をやると おいしそうにマメ菓子を口の中に放り込み、 手についたカスを床に捨てていました。
それまでは母が掃除して片付いた実家に帰るだけだったので、 私もまったく気がつかなかったのですが、 この父と一緒に暮らしながら家を奇麗な状態に整えるのは、 かなり大変だったようです。
すき焼きの顛末。
話は少し前後しますが、毎年恒例のすき焼きについては、 どうにか親子3人で食べることができました。
帰省した翌日に両親を連れて精肉店まで出向き、目当ての松阪牛を入手。 大みそかに掃除を終えた後、 ショッピングセンターでおせち料理と一緒に長ネギなどを買い込み、 母に下ごしらえを頼んだところ、 時折笑顔を見せつつ包丁を振るっていました。
私自身はサービス役に専念。 両親に肉や野菜を取り分けたり、小中学生の頃の思い出話をしたりと、 一家団らんの時を過ごしました。 この数カ月で、一番ホッとした瞬間だったかと思います。
久々のごちそうに夢中になった父が、 「うまい、うまい」と言いながら、 テーブルの上にも、床にも食べかすをこぼしまくったのは、 ご愛敬と言ったところでしょうか。 (続く)
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