
【発端編・第15回】足を引っ張る父。
そろそろ……。
家に帰った私は、必死で苛立ちを抑えながら、 母に対して明るく掃除をしようと呼びかけました。
最初は「それどころではない」「誰かがさらいに来る」などと言って 取り合ってくれませんでしたが、私が率先して買い物袋から掃除道具などを取り出し、 実際に掃除を始めると、 「そんなに適当にやったんじゃ、掃除にならない。ちょっと貸してみろ」と一言。 一緒に掃除をし始めた母の表情は、次第に柔和なものへと変わっていきました。
時間は17時頃。普段ならそろそろ夕食の準備を始める時間ですが、 今日は母の気分を落ち着かせるのが最優先。 一区切りついた後で、 翌日の朝食用に購入しておいたパンでも食べればいいかと考えていました。
そんな様子を父が何か言いたそうに窺っています。 父の性格やこれまでの行動からいって手伝いを買って出るわけないだろうし、 マクドナルドの一件を謝る気なのかなと思って 「どうした。何か用?」と声をかけてみると、 「そろそろ晩ご飯の時間ですよ」と答える父。
「はぁ?」 「いや、そろそろ晩ご飯の時間ですよ」 「あの、聞こえなかったってわけじゃなくて。何、言ってんの?」 「だから、掃除なんてつまらないことやめて、 そろそろご飯の準備をしてくれないかな、と」
あのなぁ……。
「あのなぁ……」 私は怒りを押し殺しながら父に向き合いました。 「『つまんないこと』って何だよ。 俺がどういう気持ちで掃除してるかわかるか? 勝手にハンバーガー食ってたようなヤツに食わせる飯なんかねーよ」 「なんで、そんなひどいことを。 後でお前らばっかりおいしいもんを食べようとしてるんだろ」 「そんなはずないだろ。掃除の邪魔だから、取りあえずそこをどいて」
すると父は必死の形相で訴えかけてきました。 「親をそんなにないがしろにするなんて、お前はどういう息子だ。 母さんからも言ってやってくれ!」
母のほうに目をやると、掃除の手を止めて小さな声で何かをつぶやいています。 「どうした?」と聞くと、 「そんなに大声を出したら、アイツらがやって来る……」と震えた声で答えました。 「いや、そもそも『アイツら』なんていないから」 「孝治と父さんが言い合いするのも、アイツらがやらせているに違いない」 「そんなことないって」
そこへ父が割って入ります。 「そんな話はいいから、そろそろご飯を作ってくれ」 今思っても、このとき父に手を挙げなかったのは、 自分自身のことながら褒めてやりたいぐらいです。
結局、その日の掃除はやりかけの状態で打ち切り。 翌朝「知らないヤツが家に上がり込んで掃除している」との母の訴えを聞き、 私はまた頭を抱えることになりました。 (続く)
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