
【発端編・第7回】盗聴? 盗撮?
夜のホームセンター。
激しく動揺する母の背中をタオルで拭いてやりながら、 「大丈夫、大丈夫。誰もやってこないから」 「父さんがちゃんと話してくれないから、少しイラッとしただけ」などと話しかけ、懸命になだめました。 そしてようやく服を着終わった母と入れ替わりに父を入浴させ、今度は母と二人きりで話すことに。
「母さん、その……何者かに狙われるようになったのは、やっぱり夏からなの?」 母をソファーに座らせ、私が話しかけると、 「そんなことをうかつに口にするんじゃない! 家中に盗聴器と隠しカメラが仕掛けられているのに」と小声で制止してきます。 「ほら、あの壁紙の隙間とか、あのコンセントとか……。お前にはわからんのか?」 「……わかった。近くのホームセンターまで一緒に買い物に行こう」
閉店間際のホームセンターへと母を連れて行った私は、 「何をするつもりなんだ?」と 母が不安そうに問いかけるのを無言で制し、壁紙やテープなどを購入しました。
少しでも母を安心させたい……。
自宅に戻った私は努めて明るく母に話しかけました。 「母さん、さっき言ってた盗聴器やカメラ、どこにあるのか教えてくれる?」
母が指さす箇所に対し、購入したばかりの壁紙を切り取り、 気になるらしいところを覆い隠すように貼り付けていきます。 風呂から上がってきた父が、その様子を不思議そうに見つめ、 何か声をかけたそうにしていましたが、それに応える余裕などありません。 少しでも母の不安材料を取り除き、まともに話し合えるようにしたい一心でした。
0時をまわった頃、ようやく私の作業が一段落しました。 少し納得がいったのか、母の表情も心なしか落ち着いたように見えます。 本当ならすぐにも事情を聞き出したいところでしたが、 両親の肉体的な疲れも考え、質問の続きは翌日にすることにしました。
「今日はもう遅いし、俺も風呂に入って寝ることにするわ。ふたりは先に休んでて」 そう声をかけて、脱衣所に移動して服を脱ぐ私のそばから母は離れようとしません。 「どうしたの?」と聞くと、「ゆっくりと風呂に入れ。何が来ても、私がここで守ってやる」とのこと。
こうして入浴した私。浴室の曇りガラスのドアから、母のシルエットが見えます。 浴槽の中で身体を温めながらも、 自分の心がどこまでも寒々としているのを感じていました。 (続く)
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