
【発端編・第6回】「すいません……」
悲しい夕食。
「病院」という言葉を口にした私に対し、母は恐ろしい形相で拒絶してきました。 なんとか説得を試みたものの抵抗が激しかったので、 とりあえず話を打ち切って夕食に向かうことにしました。 その頃には既に日も沈み、冬の夜の寒さが身に沁みました。
お気に入りだった寿司屋に連れて行っても、母の様子は落ち着くことがなく、 周囲に対して過剰なまでにビクビクとしています。 「さっきの話の続きだけど……」 食事をとりながら話しかけた私を、 「シーッ! こんなところで声をかけるヤツがあるか!」と一喝。 食べ始めてから10分も経たないうちに、 「家が気になって仕方がない。誰かに火を付けられているから」と言い出し、 席を立って店を出て行こうとします。
当然ながら、店員や他のお客さんからの注目を集めることになり、 猛烈に恥ずかしかったのを覚えています。
「いい加減にしろ!」
実家に戻ってからがまた大変でした。
荒れた室内を可能な範囲で片付け、お風呂を沸かして両親に先に入るように促すと、 「風呂になんか入ったら、おぼれさせられてしまう」と言って、 素直には言うことを聞いてくれません。 長く公園にいて身体が冷えていることだし、ゆっくり温まってほしいだけだと言い聞かせ、 どうにか母を入浴させた私は、リビングの片隅でシュンとうなだれている父に声をかけました。
「父さん、どういうことかイチから説明してくれないかな」 「すいません……」 「いや、俺は今、謝ってほしいわけじゃなくて、何が起きたかを知りたいんだけど」 「すいません……」 「だから、謝るんじゃなくて、夏に電話で話したときから、現在に至るまでの……」 「すいません……」 「あのな、謝らなくても……」 「すいません……」
「いい加減にしろ!」 気がついたら父を怒鳴りつけていました。 そして、その声を聞いた母が、全裸でずぶ濡れの姿でリビングに駆けつけ、 「やめてくれ、ヤツらに殺される!」と懇願してきたのです。 (続く)
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